アントニオ タブッキ (Antonio Tabucchi)
須賀 敦子 訳
白水社 出版
先日の訃報を眼にして、代表作を読んでみました。
読了時、カードを使ったテーブルマジックでも見たかのような感覚に囚われました。1枚1枚のカードをきちんと見ていたと思っていたのに、本当はきちんと見てなどいなかった、カードのすり替えを見逃した、そう確信するような感覚です。いろいろ疑いだすと、それぞれのカードが本物だったかさえ怪しく思えてくるような、あの感覚です。
あるいは、現実そのもののリアルさを体感しながらも、これは夢のなかの出来事だと確信するときの感覚にも似ているかもしれません。
イタリア出身の男性がひとり、ボンベイに降り立ち、ある宿に向かいます。どうやら友人を捜しているようです。手懸りをつかんで、友人の足跡を追います。道中で眼にする光景や出会う人々は、イタリア人男性の視点を通してみると、どこか現実感がありません。その異世界は、まさしくインドのように見えてくることも、インドではないどこかに見えてくることもあります。
読んでいるあいだ、そこまでして友人を捜すきっかけとなった手紙には何が書かれてあったのか想像し、友人がよほどの窮地に立たされていると思わせる内容だったに違いないと推測しました。また、彼が昔のことを思い出せば、友人とはかなり親しかったに違いないと推測しました。しかし、それらの推測は帰着点らしい帰着点にはたどり着けません。するりとかわされて結末を迎えます。
だから満足できなかったかというと、そうではないところが不思議です。

