2020年03月12日

「サクラと星条旗」

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ロバート ホワイティング (Robert Whiting) 著
阿部 耕三 訳
早川書房 出版

 日米の文化比較のような本かと、タイトルから勘違いをして入手しました。実は、米国のメジャーリーグのあれこれをそこで活躍する日本人選手を中心に紹介するエッセイです。普段野球を観戦しないので、メジャーリーグに渡った日本人はこんなにも多かったのかと今更ながら驚いたのですが、プレーの話題以外でも色々驚かされたことがありました。

 そのなかでも数字絡みのことは、印象に残りました。ひとつは『セイバーメトリクス (SABR metrics)』です。SABR は、Society for American Baseball Research (アメリカ野球学会) のことで、metrics は指標や評価基準を指します。統計学の一種ですが、これで選手の価値が判断されるそうです。WHIP、PAP、VORP、BIP% など、見てもわからないメトリクスばかりですが、これらを駆使して、野球経験がまったくないながら活躍する GM もいるそうです。

 もうひとつは、日本の球団の懐事情は、年間(数)十億円レベルの球場使用料で痛むいっぽう、米国の球場は、莫大な地元の助成金で支えられ、球団が多額な使用料を支払うことはないという日米の対照的な状況です。こうして球団が選手に資金を投入できる余裕が生まれ、日本の優秀な選手がメジャーリーグに移っていく事情も生まれているようです。結局のところ、地元の助成金も、球場で試合が行われることによる経済効果をもとに算出されているのでしょうから、スポーツも結局は経済活動のひとつということなのだと今更ながら気づかされました。

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2020年03月11日

「旅に出る時ほほえみを」

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ナターリヤ・ソコローワ 著
草鹿 外吉 訳
白水社 出版

 最初に世に出されたのが 1965 年という古い作品で、1967 年に日本語に訳され (邦題は「怪獣 17P」)、1978 年に改訂 (邦題は「旅に出る時ほほえみを」) され、それがここに再刊されたそうです。

 ジャンルとしては、いわゆる SF なのですが、ヨーロッパ・アメリカ流の SF ではなく、ソ連風にいうところの『科学幻想小説 (ナウーチナヤ・ファンタースチカ)』なのだと、巻末の解説に書かれてありました。作者自身はこの物語を『現代のおとぎばなし』と称しているそうで、わたしにはそのジャンルのほうが合っていると思えました。1965 年が遠い過去になってしまったことが理由のひとつかもしれません。

 もうひとつ『おとぎばなし』らしく感じられた理由は、主人公が《人間》と称され、最初の翻訳版のタイトルになっている『怪獣 17P』を発明した者として『怪獣創造者』と呼ばれることはあっても、名前で呼ばれることはありません。

『人間』のほか、重要な役割を担う登場人物はほかにもいて『見習工』や『作家』などと呼ばれ、『むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが』と始まるおとぎばなしに似た雰囲気を感じさせます。

『人間』、『見習工』、『作家』などは、権力に憑りつかれた愚かで恐ろしい者たちに、人として最低限の権利さえ奪われてしまういっぽう、怪獣は優しさと成長を見せるあたり、『おとぎばなし』らしく感じられます。

 この物語のなかで、珍しく名前で呼ばれているルサールカという若い女性は『人間』に対してこう言います。『わたしをつれていって……怪獣のところへ。人間といっしょじゃやっていけないわ。人間といっしょだと、わたし、こわいんです』それに対して『人間』は答えます。『わたしも、そうだ』。

 この物語を象徴する会話だと思います。

 こんな会話が交わされた時代もあったと昔話のように語れるときを迎えたいと思いました。
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2020年03月10日

「超・箇条書き」

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杉野 幹人 著
ダイヤモンド社 出版

 以下は、本書籍の紹介です。この本に書かれた内容が実践された箇条書きだと思います。著者によると、箇条書きのメリットは、書き手が箇条書きでまとめることにより、読み手がすべき情報処理(理解するプロセス)の負担が減り、より正確に伝わることだそうです。

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 箇条書きについて、自己評価してみたところ、上記の MECE (ミーシー) 崩しができていないことに気づきました。MECE は、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の略で、ダブりもなく、漏れもないことを指しています。

 重複せず網羅できていることはいいことだと思っていたのですが、著者は、MECE により、伝えたい相手に引っかかるフック、山場がなくなってしまうと言っています。たしかに、伝えたい相手に伝えたい内容が伝わることが大切なのであって、網羅することを最重要事項のように考えるのは間違っているような気がしてきました。

 箇条書きの道のりはまだまだ先がありそうです。
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2020年02月23日

「サイコセラピスト」

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アレックス・マイクリーディーズ (Alex Michaelides) 著
坂本 あおい 訳
早川書房 出版

 タイトルの「サイコセラピスト」は、本書では心理療法士と訳されています。著者は、セラピーを受けて助けられた経験から、サイコセラピストになる勉強をされたようです。それだけに本作品の主人公である心理療法士セオ・フェイバーが語る内容は、専門用語も混じってリアルです。

 ただ、日本語化に際し、その「サイコセラピスト」をタイトルにしたのはマイナスだったように思います。もとの The Silent Patient のほうが、最後の最後まで結末を想像できず、より楽しめたのではないかと感じました。

 The Silent Patient とは、本作品の主人公セオがどうしても自ら担当したいと願う患者アリシア・ベレンソンのことです。夫殺しという重い罪を犯し、司法精神科施設に収容されていて、一切ことばを発しません。

 アリシアが夫を殺害する 1 か月ほど前から書き始めた日記のようなものが本作品の最初に登場し、セオの心理療法士としての仕事の展開とプライベートの結婚生活の流れの要所で挿しこまれています。この作品において鍵となるのは、この 3 本の糸がどう絡まっているかですが、わたしはついこの日記が鍵だと思いこんでしまいました。

 昔読んだ「ゴーン・ガール」に登場する日記のことが思い出され、この日記に真実があるのか、最後まで気になって仕方がありませんでしたが、日記の役割が明かされたときは、ほんの少し正義が残されていたように感じ、読後感は悪くありませんでした。

 誰が精神を病んでいるのか、それを知りたいと思ってしまうページターナーです。
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2020年02月22日

「お金の流れで読む日本と世界の未来」

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ジム・ロジャーズ (Jim Rogers) 著
大野 和基 訳
PHP研究所 出版

 ジム・ロジャーズへのインタビュー内容を書籍にしたものです。投資するほどの資金を持っていないくせに、ジム・ロジャーズが語った内容を書籍にすると大概売れると評判なので、つい気になってしまい読みました。

 投資とは関連性の薄いみっつの話題が気になりました。ひとつめは、韓国語のチェボル (chaebol:財閥) という単語が英語でそのまま通用するということです。日本語の keiretsu が英語で通用するのと似ています。

 ふたつめは、総人口に占める子供 (0〜14歳) の比率が 30% 以下、高齢者 (65歳以上) が 15% 以下のとき、経済が飛躍的に成長する、『機会の窓』が開くという考えです。日本の場合、1965 年から 1995 年がその時期にあたり、イギリスの場合 1980 年、ドイツの場合 1990 年に窓が閉じたそうです。経済は人口構成次第だと、あらためて思い知らされました。

 みっつめは、フィンテックによる世界発の銀行『ITF』が香港に本店を構えたそうです。IT 業界に身を置いているので、『ITF』がどんなサービスを打ち出してくるのか興味が湧きました。

 最後に投資関連の話題をひとつだけ。いま国債を購入するのにふさわしい国はロシアだけだそうです。
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2020年02月21日

「医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者」

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大竹 文雄/平井 啓 編著
東洋経済新報社 出版

 医療現場における行動経済学の研究が、実例を交えながら説明されています。研究はおもに 2 種類あり、意思決定上の行動経済学的なクセによって医療健康行動が、積極的に取られたり、逆に、阻まれたりしていることを明らかにする研究がひとつで、もうひとつは、人の行動経済学的なクセを利用して、積極的な医療健康行動を促進しようとする、ナッジの研究です。

 わたしは医療従事者ではないため、後者より前者の研究に興味があります。特に、QOL に影響する判断で後悔したくないので、自らのバイアスを事前に理解しておきたいと思いました。

 行動経済学的なクセの具体例としては、損失回避、現在バイアス、社会的選好 (利他性・互恵性・不平等回避)、サンクコスト・バイアス、平均への回帰、利用可能性ヒューリスティック、極端回避性、同調効果などです。

 このなかで自分がもっとも自分が囚われやすいだろうと思うのは、サンクコスト・バイアスです。寛解が見込めないこともあり得る、癌などの治療をやめるタイミングは難しいと思います。ここまで頑張ってきた(もうコストは取り戻せなくなっている)のだから、治療をやめたくないと考え、最後にやりたかったことを果たせずに亡くなった事例が紹介されています。

 最後にやりたいことは何か、それをするのに必要な体力と時間はどのくらいかをイメージしながら、サンクコストに囚われないよう注意したいと思いましたが、現実にそのときを迎えたら難しいかもしれません。
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2020年02月20日

「イケア イングヴァル・カンプラード」〜世界の大起業家から学ぶ 〜

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フレドリック・コルティング/メリッサ・メディナ (Fredrik Colting/Melissa Medina ) 著
ジョルダーノ・ポローニ (Giordano Poloni) 絵
岩崎書店 出版

 あの IKEA の創業者の人生を絵本にしたものです。

 わたしは子供のころ、いちおういくらか伝記を読みましたが、そのなかの偉人たちに対し、自分が住む世界とはまったく異なる時代に生きた過去の人といったイメージを抱きました。しかし、この本で描かれるイングヴァル・カンプラードは、2018年まで活躍していた実業家で、同じ時代を生きた人生の先輩といった趣があり、こういう人生譚を絵本というかたちで子供たちが読むのもいいのではないかと思いました。

 薄い絵本にするために、IKEA の創業者のどのような面を切りとったのか興味深いところですが、決して裕福とはいえない家庭に生まれたこと、5 歳のころにはすでに商才が芽生えていたこと、失読症だったこと、17 歳で高校を卒業したことなど、押さえるべき情報は押さえられているようです。

 ただ古い車に乗り、仕事にお弁当をもっていくといったカンプラードのライフスタイルから『ぜいたくをしない』人だと判断し、その目的を『むだづかいをしない』ためと決めつけているのは、少し行き過ぎではないかと思いました。ビジネスパーソンとして、自分が所有する企業で働く人たちを慮っているだけかもしれません。また『ぜいたく』と『無駄』を同一視する価値観を押しつけることに対しても少し疑問を感じました。
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2020年01月31日

「酸素は鏡に映らない」

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上遠野 浩平 著
講談社 出版

 窓付きの装丁が気に入って購入した本です。中身に対する印象は、独特な世界観のなかに入りこめず、消化不良を起こしてしまった感じでした。

 それでシリーズの途中から読んだのかもしれないと調べてみると「ブギーポップ」というライトノベルシリーズを読んでおくべきだったようです。このシリーズ全体を流れるテーマが何かはわかりませんでしたが、この本のテーマはタイトルにある『酸素』です。

 わたしたち人間にとっての『酸素』の捉え方が、一般的イメージとは少し異なっていました。まるで預言者かのような物言いをする柊という登場人物はこう語っています。
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酸素とは触媒だ。
モノを燃やす……そういう働きをするものだ。生命とは、どんな小さなものであっても、エネルギーを燃焼させて、生きている……だからモノを燃やすモノとしての酸素が必要なのだ。
つまり……酸素とは……危険なものだ。
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 酸素を必要不可欠とするのではなく、危険物としてみなす考えが新鮮でした。そして、この柊と会話を交わしている健輔という少年が、酸素が危険なら毒みたいなものかと問いかけ、そのとおりだと柊は答えます。
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人間は……その成分のほとんどは、毒でできているのと同じだ。
他を取り込み、毒で溶かし、燃やし、己のものに造り変えていくことが、生命の本質――呼吸レベルから、それは身に染みついている……それは、人が人を求めるときでも、同じことが……刺激物が、毒が、つねにそこには存在している……。
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 喩えがわかりやすいかどうかは別として、人の性質として、そういう面もあるように思います。
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2020年01月17日

「夜中にジャムを煮る」

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平松 洋子 著
新潮社 出版

 この本を読み、著者は料理研究家だと思ってしまいましたが、エッセイストだそうです。わたしがそんな誤解をしてしまうほど料理満載の一冊です。

 わたしの場合、料理ができないのでレシピを参考にするということはないのですが、道具類については心惹かれるものがありました。ひとつは、お米を炊くための鍋『黒楽御飯鍋』で、美味しいご飯が炊けそうなうえ見た目が気に入りました。著者同様わたしも炊飯器を手放せないか考えたことがあり、実行に移すおりには参考にしたいと思います。

 もうひとつは、蒸し野菜が上手にできるというドイツ製『クリスピー・カバー』です。外側がカリッ、内側がしっとりジューシーに焼き上げられるそうで、野菜以外にも幅広く使えそうなのですが、売り切れ状態で手に入れるのは難しそうでした。

 料理にあまり関心を持てないわたしには『豚に真珠』といった感じの本でした。
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2020年01月16日

「無から生まれた世界の秘密 宇宙のエネルギーはなぜ一定なのか」

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P. アトキンス (Peter Atokins) 著
渡辺 正 訳
東京化学同人 出版

 物理学も数学も苦手なわたしがこの本を最後まで読めたのは、『数式はみな本文から落とし、巻末の注記に押しこめ』るという方針のもと、言葉 (だけ) で自然界の法則が説明されていたからです。物理学関連の書籍はどれを読んでも数式を理解できずに前に進めなくなっていたので、助かりました。また、擬人化された説明も読みやすく感じられました。

 たとえば、宇宙誕生の際、わずかなこと (not much) が宇宙を生み、造物主 (神) のようなものは、手抜き (怠慢、サボり indolence) をし、同時にアナーキー (無政府状態、無秩序 anarchy) も大きな要因となり、不可知 (知りようのないこと、無知 ignorance) が手助けしたと著者は考えています。

 キーワードが『わずか』『手抜き』『アナーキー』『不可知』だとわかりますが、相互の関係は漠然としてよくわからない説明です。そこを著者は、さまざまな理論・原則を紐解きながら、本書の終わりには読者がそのとおりかもしれないと感じるようなところまで持っていきます。

 ひとつ例をあげると、光の反射の法則や屈折の法則などはどれも、『光は、出発点から終点まで最速で着ける経路をたどる』と言い換えることができるそうです。

 光の動きに先述の『アナーキー』を当てはめ、光が出発点から終点まで無秩序に (勝手気ままに) 動いたと仮定します。そうすると、電磁波である光は、それぞれ別ルートで届いたとき電場が互いに打ち消しあう結果になりますが、例外的に打ち消しあわないのが、最短ルートをとった光だというのです。これを著者は、『アナーキー』がこの『光は、出発点から終点まで最速で着ける経路をたどる』という法則を生んだのだと述べています。

 こうして多種多様な法則を例に、『わずか』『手抜き』『アナーキー』『不可知』に触れていくと、著者の理論の核が薄っすらと見えてきたような気がしたのが不思議でした。
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