2013年12月26日

「ピアノ・ソナタ」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
直良 和美 訳
東京創元社 出版

チャイナタウン」の続編ですが、視点がリディアからその相棒であるビル・スミスのへと移っています。細やかな女性の視点とは違って、感情を表に出すことなく淡々と調査を進めていく印象が強くなっています。

 その一方で、回想シーンなどビルの意外な一面を見せる場面も多く、「チャイナタウン」とこの「ピアノ・ソナタ」が揃ってはじめて、このシリーズの幕開けだと言えるのかもしれません。

 今回の依頼内容は、ビルの恩人であるボビーの甥を殺した犯人を捜し出すというものです。甥は、ボビーが経営する警備会社で警備員として仕事をしていた最中に殺されたため、ボビーの心中は察するにあまりあるものがあり、ビルは躊躇なく仕事を引き受けます。そして自らは警備員として現場に潜入し、リディアには外部での調査を依頼します。

 ボビーが請け負っている警備の対象は、治安が悪化しつつある地域にある慈善団体で、シニア世代の人たちが暮らしています。そして前作同様、チャイナタウン独特の事情も描かれています。子供たちが育つ環境としては厳しい場所かもしれませんが、さりげないビルの気遣いなどを読んでいると、世の中、画一的に判断できる事柄も、人も、場所も、存在しないという気持ちになるので、暗い面と明るい面のバランスよく描かれた作品だと思います。

2013年12月12日

「天使の死んだ夏」

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モンス・カッレントフト (Mons Kallentoft) 著
久山 葉子 訳
東京創元社 出版

 女性刑事モーリン・フォシュのシリーズ第2弾です。前作「冬の生贄」では、酷寒の地が舞台になっていましたが、今回は夏です。摂氏40度近い猛暑と戦いながら、夏季休暇のため少なくなった人員でモーリンたちが追うのは、15歳くらいの女の子ばかりを狙う暴行魔です。最初の被害者は記憶を失った状態で発見され、次は遺体で発見され、その次の被害者のことを考えないわけにはいかない状況で、捜査員はみな追いつめられていきます。

 切迫した状況と異常な暑さという二重の負担のうえに、モーリンはもうひとつ重荷を背負っていました。心の拠り所である娘のトーヴェが元夫ヤンネと一緒にバリで休暇を楽しんでいるのです。スウェーデンより涼しいリゾート地バリで休暇を満喫する元夫と娘の描写が、モーリンの孤独を際立たせています。

 しかし孤独を抱えるのはモーリンだけではありません。不幸な境遇を逃れスウェーデンで移民として暮らす女性の視点、差別や偏見に晒されながらも為すすべのない少数派の視点、虐待に耐えて生き延びた女性の視点などが錯綜していて、社会のなかのコントラストが印象に残りました。
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2013年12月11日

「私の職場はラスベガス」

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デボラ・クーンツ (Deborah Coonts) 著
中川 聖 訳
東京創元社 出版

 なんとも奇抜な設定です。職場がラスベガスというだけでも充分非日常的ですが、この主人公の場合、非日常的といったレベルを完全に通り越しています。彼女は、ラスベガス郊外で売春宿を経営する母が15歳のとき身籠った子供で、しかも自身も15歳で家を飛び出し、30歳を過ぎたいま、ラスベガスの一等地に鎮座する成金趣味全開のホテルで、顧客関連係主任という接客上のトラブルを一切合財処理する立場にいます。次から次へと持ち込まれる問題を回転のいい頭で捌きながら、乗り回す車はフェラーリやポルシェ。そのうえ、働きながら学位を取得した努力家でもあります。

 そんな彼女が素人探偵役を演じると、どうなるのでしょう? 刑事にあれこれ指図して従わせたうえ、たっぷり貸しをつくるという展開になっていて、よくあるコージーミステリの主人公とは、ひと味違います。

 そんなスーパーウーマンのような主人公にも実は弱点があって、その完璧ではないところに共感しながら読めるようになっています。

 ホテルが舞台となれば、どんな人物が登場してもどんな事件が起こっても不思議ではないので、このシリーズ、まだまだ続きそうです。
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