2014年02月26日

「殺人者と恐喝者」

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カーター・ディクスン (Carter Dickson) 著
高沢 治 訳
東京創元社 出版

 一風変わった殺人事件なので、惹きこまれて一気に読んでしまいました。変わっているのは、犯人が直接手を下すのではなく、狡猾に仕組んだ罠によって第三者に邪魔な人間を始末させる点、密室ではないものの一種の不可能犯罪である点、登場人物いずれにも動機が見つからない点などです。

 読了して最初に思ったのは、この不可能犯罪を可能にしているトリックのお粗末さは勘弁してほしいということでした。その一方で、巧みに隠された動機は、読者にもヒントが提示されてあり、わたしには無理でも勘の冴えた読者なら、見破ることができたかもしれないと思う内容でした。

 トリックの解明は最低、動機の解明は最高、といったミステリの主要素に対し両極端な印象を受けましたが、作品全体としてみたときは、好ましい印象をもちました。それは、ユーモアたっぷりに描かれている登場人物を楽しめたからだと思います。探偵役を務めるヘンリ・メリヴェール卿は有能であるだけでなく、辛辣に当てこすったり、度の過ぎたいたずらを自慢したり、楽しい人物です。また、ヘンリ・メリヴェール卿のゴーストライターであるフィリップ・コートニーは、33歳にもなってひと目惚れした女性を前におろおろしてしまう好青年で、この恋がどういう結末を迎えるのか気になりました。

 解説によると、カーター・ディクスンの作品としては駄作に分類されている本著だそうですが、惹きこまれて読んでいた自分の時間を思うと、駄作で片付けてしまうのは惜しい気がします。
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2014年02月25日

「日本人が気づいていないちょっとヘンな日本語」

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デイビッド・セイン/長尾 昭子 著
アスコム 出版

 この本で「ヘンな日本語」と指摘されている内容は、大きくわけてふたつに分類できます。ひとつは、日本語として誤っているとされているもの、あるいはかつては使われていなかったけれど定着して俗に通用するようになったものです。もうひとつは、日本語を外国語として習得する際に難関となるようなものです。

 前者の代表がコンビニ用語と呼ばれる、「1万円からお預かりします」のような決まり文句や若者言葉です。複数の日本人が使っているからといって正しいとは限らないし、誰に対しても意図したとおり伝わるとは限らないというものです。後者は、前者に比べると広範囲にわたっていますが、タイトルにあるように「気づいていない」ことがいくつかありました。

 ひとつは、否定形の疑問文です。レストランなどで「空いている席はないですか?」と訊くのは、ないことを期待しているように聞こえて不自然だという指摘です。言われてみれば、わたしも否定形で訊いている気がします。空席があったらいいと思っていても、「ないですか?」と訊くのは、否定的な返答を受けたときのショックを和らげるためではないかと日本語教師である長尾氏はコメントしています。

 もうひとつは、程度がはっきりしない言葉、具体的には「それなり」についてです。この単語は、テレビコマーシャルをきっかけとして広く浸透した言葉ですが、その理由として日本人は、上流でもなく下流でもなく中流を好むため、こういう曖昧ながら両端をきっちり除く言葉が広く受け入れられたのではないかという考察です。日本人にとっては便利に使える言葉ですが、慣れていない人にとっては、状況に応じて個々が判断しなければならないだけに難しい単語だと気がつきました。

 日本語が堪能な外国人の方の視点だけに、納得することばかりです。
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2014年02月24日

「問題な日本語」

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北原 保雄 編
大修館書店 出版

 わたし自身が使った実感ではありませんが、「明鏡国語辞典」は、その解説が個性的だという評判です。その明鏡国語辞典の編者がこの本も編集しています。

 国語学者でもなんでもない一般人が問いを投げかけ、それに「明鏡国語辞典」の編集委員数人が交替で答えるという形式になっています。問いの多くは、こういう言葉の使い方は誤りではないのか、あるいは、こういう言い回しは間違っているけれど定着していくのだろうかといったことです。

 個性的と評判の「明鏡国語辞典」の編集委員が答えているのなら、独断的な解説になっているのではと思いながら読み始めましたが、その予断は、間違っていました。

 有無を言わせず誤用と断じているのはほんの一部で、まだ言葉の変化の途中にあるものだからもう少し様子を見るべきではなかろうかとか、気持ちはわかるが聞き手に正しく伝わらないことを自覚すべきではないかとか、言葉が、時代とともに変化することも使われる状況によって受けとられ方が変わることも考慮されたうえでの回答だと思われるものばかりで、共感できました。話し手の心理や似た音の言葉の影響など様々な要素が絡み合って生まれた言葉の変化をできるだけ解しながら伝えようとする姿勢が感じられ、気持ちよく読めました。

 ある回答では、自分が特定の言葉を使ってしまう理由を気づかされました。"全然"という言葉は、否定を伴って使うべきだと頭では理解しながら、"全然大丈夫"とか"全然平気"とつい言ってしまうのですが、この"全然"の使い方に対する解説には、なるほどと納得し、これからは"全然大丈夫"と言ってしまっても、あまり気にしないでおこうという気になりました。

 期待していた何倍もの発見がありました。
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2014年02月07日

「氷の女王が死んだ」

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コリン・ホルト・ソーヤー (Corinne Holt Sawyer) 著
中村 有希 訳
東京創元社 出版

老人たちの生活と推理」の続編は、やっぱり老人ホームの入居者が殺されるところから始まります。変化の少ない老人ホームでそう頻繁に入居者が殺されたら大変というお決まりの突っこみはさておき、今回殺されたのは、氷の女王です。人の気持ちを弄ぶかのような嫌がらせばかりをする氷の心の持ち主が入居早々殺されてしまいます。

 捜査員として派遣されたのは、前作でお馴染みのマーティネス警部補とスワンソン刑事。主人公のアンジェラとキャレドニアの性格を熟知しているだけあって、マーティネスは、素人探偵が出張ってこないように先手を打ったつもりですが、当のアンジェラとキャレドニアは、そうは問屋が卸さないとばかりに屁理屈を捏ね、刺激満載の犯人捜しに乗りだし、捜査チームの一員に加わって役に立っているという実感を得んと張り切ります(役に立つことをしているという実感が欲しくて堪らないあたり、心境がよく伝わってきます)。

 今回も、内部事情に通じるアンジェラとキャレドニアが刑事ふたりを助け、事件解決となるわけですが、今回もやはり謎解きというより、アンジェラとキャレドニアの個性に魅せられて、あっという間に最後まで読み切ってしまいました。このシリーズはまだまだ続くので、まだまだ読んでしまいそうです。
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2014年02月06日

「老人たちの生活と推理」

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コリン・ホルト・ソーヤー (Corinne Holt Sawyer) 著
中村 有希 訳
東京創元社 出版

「おばちゃまは飛び入りスパイ」という、孫もいる世代の柔和な女性が未経験でCIAのスパイになってしまうという小説を読んだことがあり、そんな雰囲気を想像して読み始めたのですが、このシリーズの探偵役アンジェラは、全然違います。"老人ホームで暮らす可愛いおばあちゃま"というより、"現役バリバリの毒舌家"といった感じです。それじゃ、ホームでの暮らしも大変だろうにと思うほどの敵の作り方を冒頭で披露してくれます。

 しかしそこは長年続くシリーズものだけあって、アンジェラとその友人キャレドニアは魅力的に描かれています。毎日の食事以外に楽しみも刺激もないホームでの暮らしに突然降って湧いた殺人事件にワクワクし、ホームのなかのことなら警察の先を行けると張り切り、あっちを掻き回し、こっちで噂話をほじくり返し、捜査員たちの迷惑を顧みず、嬉々として犯人を捜します。

 耳も遠くなり、眼も覚束ない。そうわかっていても自分のことを"年寄り"と認めない七十代たちが、日常の何気ない変化に気がつき事件を解決したときは、読んでいるほうも思わずにんまりしてしまう作品です。

 ほろ苦い結末ですが、その結末自体が、いくつになっても"年寄りだからもう何も気にかけない"などという心境にならないことを示しているようで、年輩の方々をうまく描写している気がします。
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