2014年04月12日

「学問」

20140412「学問」.jpg

山田 詠美 著
新潮社 出版

 練りに練られたものと感じさせる構成になっています。主人公の仁美は、彼女が美流間市に引っ越してきた7歳のときから、高校生時代までしか語りません。それでも、読者は、その後の仁美とその友人が死ぬまでの人生を考えずにはいられないように出来ています。そして、彼女たちそれぞれの大人時代を考えるとき、彼女たちが小中学生のときに経験したことがどう影響したのかを自然と想像してしまうのです。

 仁美にとっての学問は、究めても究めてもきりがない深いものであり、そしてその過程で学んだことは、その後の人生において極めて大きな意味をもつものであり、ともに学んだ学友は親友とも呼べる特別な友達でした。

 そう仁美のことを受けとめるとき、やはり自分自身のことも振り返らずには、いられません。そういう風に練られた構成なのだと思います。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月11日

「語感トレーニング」

20140411「語感トレーニング」.jpg

中村 明 著
岩波書店 出版

 著者は、語感を次のように説明しています。

<<<<<
 <中心的意味>はその語が何を指し示すか、というハードな論理的情報であり、<周辺的意味>は、その語が相手にどういう感じを与えるか、というソフトないわば心理的情報である。(中略)この本では世間一般の用語に従って、前者を「意味」、後者を「語感」と呼んでいる。
>>>>>


 そして「意味」と「語感」の関係を次のように喩えています。

<<<<<
 話すときも書くときも、表現者は二つの別の方向から最適なことばに迫る。何かを伝えるかという意味内容の選択と、それをどんな感じで相手に届けるかという表現の選択である。芸術における素材と手法という関係に似ているかもしれない。
>>>>>


 この本には、虫食い状態になっている文に当てはめられる単語を選ぶドリル問題が55題用意されています。そして、その虫食い部分に当てはめられる単語がなぜ相応しいのか、逆に当てはめられないのはなぜかを検討しながら、語感を確かめていきます。

 感覚的にどれが相応しいか相応しくないか、おおよそ見当はつきますが、その理由を説明するのは意外と難しいと気づきました。

 また、言われたり書かれたりした言葉が指すものや概念自体に違いが感じられるだけでなく、その言葉を選んだ人にも違いが感じられるということも再認識できました。

 たとえば、<ファスナー>と<チャック>では、もの自体の差より、その言葉を選んだ世代の差が感じられます。一方、<キッチン>と<台所>では、そこからイメージされる空間の差も同時に感じられる気がします。

 ただ、虫食い部分に当てはめる言葉自体も、世代や地域によって差があるかもしれないとも思いました。実際にひとつひとつドリルを進めてみると、ちょっとした言葉に対する感覚の差が感じられる気がします。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本語/文章) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月10日

「半身」

20140410「半身」.jpg

サラ・ウォーターズ (Sarah Waters) 著
中村 有希 訳
東京創元社 出版

 これはミステリ? それともロマンス? この物語の結末はどこに? そういう問いが次々に浮かんでしまう宙ぶらりんな感覚で読み進めたら、最後に意外な結末に出合うという仕組みになっています。

 19世紀後半、女性は結婚して男性の保護下に入るものと考えられていた時代に、女性を愛した女性が綴る日記と詐欺師として罰を受けることになった霊媒師が綴る日記が交互に登場します。それらの日記には意外な結末を裏付ける部分があちらこちらに埋め込まれているのですが、読み進めているあいだは、それらに気づきもしませんでした。

 意外な結末に驚かされたあと冷静に考えてみると、きわめて現実的な結末に納得させられるのですが、それでも、霊媒師が囚われている陰湿な監獄や霊媒師が執り行った交霊会や女性を愛した女性の心中など、細かな描写を読んでいるあいだは、非現実的な仮定を当然のように受け入れてしまっていたようです。それだけ描写力に優れた作品だっということでしょうか。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月09日

「日本人の知らない日本語4 海外編」

20140409「日本人の知らない日本語4 海外編」.jpg

蛇蔵/海野凪子 著
メディアファクトリー 出版

 大笑いできるので、わたしのストレス発散のシリーズとなっているこの「日本人の知らない日本語」が海外進出しました。フランス、ベルギー、ドイツ、イギリス、オーストリア、チェコ、スイスなどで日本語を学ぶクラスを訪ねています。

 今作も、いままで同様笑えましたが、少し物足りなさも感じました。タイトルにある「日本人の知らない日本語」があまり登場しないことが原因かと思います。日常的に使っている物の名前を意外と知らなかったり、回りくどい表現を使う傾向があると気づかされたり、そういう身近過ぎて気づかなかった日本語のことが話題の中心から外れていました。

 どちらかというと、諸外国で日本語を学ぶ人が日本に惹かれた理由や、外国と日本の文化の違いなどが中心になっています。それはそれでおもしろいのですが、やはり知っていてしかるべきことを知らなかったことの衝撃に比べれば、インパクトが弱い気がします。

 この本がヒットしたせいか、類似の本を見かけるようになりました。それでも、このシリーズが類似本よりおもしろいと感じるのは、構成が練られているためだと思います。はっと気づく瞬間を再現するよう努めているよう感じられるのです。

 どうせなら、タイトルにある通り、日本人なのに知らない日本語について、はっと気づかされる内容を続けてほしかったと感じました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本語/文章) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月08日

「春を待つ谷間で」

20140408「春を待つ谷間で」.jpg

S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
直良 和美 訳
東京創元社 出版

 ビルとリディアが交互に語り手をつとめる当シリーズ6作目は、ビルがニューヨークを離れて依頼を受けるという設定です。場所は、ビルが山小屋で休暇を過ごすアップステート・ニューヨークです。地元民を雇用できる企業が皆無に近いこの郊外は相対的に貧しく、子供たちに優れた教育を受けさせるのも難しく、リディアが住むチャイナタウンとは違った意味で、格差が見受けられる環境です。

 休暇を過ごす場所でビルが探偵としての依頼を受けるのは意外な気がしますが、依頼者であるイヴ・コルゲートに対して何か感じるものがあったのでしょう。イヴ・コルゲートは当初、尊大なイメージで登場しますが、徐々に印象が移ろいでいきます。

 イヴ・コルゲートが本音を語るまでの紆余曲折や豊かな国アメリカと十把一絡げに語れない格差社会の歪みなど、この作家の徐々に核心に近づいていく描写は、読むたび上手いなあと思います。華やかさはないものの、小さな発見をしたときのちょっとした喜びのような満足感が読後に感じられました。もう少しこのシリーズを読み続けたいと思います。