2014年08月31日

「ペナンブラ氏の24時間書店」

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ロビン・スローン (Robin Sloan) 著
島村 浩子 訳
東京創元社 出版

 時代の流れに添った内容であることは間違いないのですが、冒険譚としての面白みに欠ける気がします。

 主人公のクレイ・ジャノンは、現代に生きる20代の若者ですが、ひょんなことからサンフランシスコの24時間営業古書店で夜勤を担当することになります。しかし、その古書店には謎の部分が多く、その解明に乗り出します。

 冒険ゲームになぞらえて、クレイがクエストと呼ぶ謎解きの旅は、ニューヨークに飛んだり、ネヴァダ州に飛んだり、たしかに冒険めいているのですが、クレイ自身が冒険するというより、コーディネイト役を果たしているといったほうが相応しいものです。もちろん最後の鍵は、クレイが握っているのですが、それまでは、資金力のある友人、グーグルに勤務するIT技術者のガールフレンド、モノづくりの達人である特殊効果アーティストであるルームメイト、学術肌の店員仲間などの能力を適宜活用しているに過ぎない印象があります。

 ただ、デジタルとアナログがうまく交わっている点が現代の雰囲気にあっていて、つまらないと酷評したくなるほどでもありません。やや物足りない感じでした。
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2014年08月30日

「イン・ザ・ペニー・アーケード」

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スティーヴン・ミルハウザー (Steven Millhauser) 著
柴田 元幸 訳
白水社 出版

 この本の翻訳をされた柴田氏がエッセイ集「死んでいるかしら」で絶賛していた「アウグスト・エッシェンブルク」が収められています。以下が全作品です。

第一部
−アウグスト・エッシェンブルク
第二部
−太陽に講義する
−橇すべりパーティ
−湖畔の一日
第三部
−雪人間
−イン・ザ・ペニー・アーケード
−東方の国

「アウグスト・エッシェンブルク」は、19世紀が舞台になっていて、現代の合理主義や拝金主義をしばし忘れて読むことができる作品です。

 主人公アウグストは、天才的なからくり人形師です。目指すものは自分が得心のいく人形をつくることであって、聴衆の歓心をかうことも、生産性をあげることも、作品に高値をつけることも、まったく興味がありません。幼き日に遭遇した衝動、自分でもからくりを仕掛けてみたいという抗うことのできない思いを成就すること以外に何も関心がありません。すべてが自らの内面で完結しているのです。ただ周囲は天才的技巧の持ち主である彼を放っておいてくれません。そんな周囲とのかかわりを経てもなおアウグストは最後に自身の原点である内面に帰っていきます。その回帰は、少し古い時代背景とあいまって不思議な空気を醸しています。

 ここに収められている作品はみな、ストーリーよりも内面や景色の描写に重きがおかれている気がしますが、この「アウグスト・エッシェンブルク」だけは、描写に負けないストーリーがあって、わたしの好みでした。
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2014年08月29日

「永久に刻まれて」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
長良 和美 訳
東京創元社 出版

新生の街」や「どこよりも冷たいところ」と同じ探偵シリーズの短篇集です。短篇集でこのシリーズを読むのは2冊目ですが、以前に読んだ「夜の試写会」のほうがわたしの好みにあっていました。こちらは、(米国では出版されず)日本向けに編集されたそうです。

 以下が収められています。

−永久に刻まれて
−千客万来の店
−舟を刻む
−少年の日
−かけがえのない存在
−チン・ヨンユン乗り出す

−春の月見

「春の月見」は、リディアとビルの探偵シリーズとは関係のない短篇で、「チン・ヨンユン乗り出す」は、リディアの母親が探偵役を務めるという変り種です。

 娘のリディアが、結婚が遠のきそうな探偵という仕事をしていることにいつも苛立っている母親が「チン・ヨンユン乗り出す」では、何かと娘の言葉を引用しています。娘のプロフェッショナルな仕事を認めていない振りをしつつも、娘の活躍を内心では認めているあたり、読んでいるとほのぼのとあたたい気持ちになりました。

 リディアやビルが登場する作品のなかでは、「かけがえのない存在」が、印象に残った作品です。かけがえのない存在であろうとすることの虚しさを感じつつも、その気持ちに共感する部分もあって、読んだあとに考えこんでしまいました。

2014年08月06日

「犯罪心理捜査官セバスチャン」

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M・ヨート/H・ローセンフェルト 著 (Michael Hjorth/Hans Rosenfeldt)
ヘレンハルメ 美穂 訳
東京創元社 出版

 タイトルになっているセバスチャンという心理学者が主人公なのですが、この男をよく主人公に据えたと変に感心してしまうくらい自己中心的な男で、こういう同僚がひとりでもいれば、それだけで職場が憂鬱になること間違いなしと思うほど嫌なヤツです。

 もちろんストーリーとして成り立っているので、単なるイヤなヤツで終わっているわけではありません。論理構成力や分析力がきわめて高く、犯罪捜査班において暴走防止役を果たすとともに、人の命に関わる場面においては思わぬ活躍を見せたりもします。そういう意外な面を見せられて、過去の辛い記憶が彼におとした翳を思うと、素直な読者としてはセバスチャンの評価を少しばかり上方修正したくもなりますが、やはり総合評価としては協調性の欠片もない嫌なヤツです、おそらく。

 でも、そういう強烈に濃いキャラクターのほうが妙に気になったりしますし、ありえない偶然が最後の最後で発覚したこともあって、もし次作が発表されれば、読んでしまいそうな気がします。
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2014年08月05日

「教場」

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長岡 弘樹 著
小学館 出版

 警察学校が舞台です。ひとりの教官が携わる学生たちが次々と登場するので、警察学校の雰囲気が感じられるいっぽう、ややメリハリに欠ける印象もあります。

 また、読むうちに気分が暗くなっていく作品でもありました。卒業することができなければ、警察官として働く道が閉ざされるという厳しい状況下にある学生を描くとはいえ、気に入らない相手を自殺の道連れにしようとか、退校覚悟で憎い相手を傷つけて仕返しするとか、自分の罪を他人に擦りつけるとか、他人のために働くことを仕事に選んだばかりの者たちに相応しくない言動が続き、気が滅入りました。

 ただそういう者たちには、そういう者たちに相応しい道が用意されていて、勧善懲悪というシンプルな図式に収まるので、わかりやすいとは思います。

 ただやはり全体としては少し物足りない感じがしました。
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