2014年11月29日

「窓辺の老人」

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マージェリー・アリンガム (Margery Allingham) 著
猪俣 美江子 訳
東京創元社 出版

 アルバート・キャンピオンという偽名で登場する謎の人物が事件を解決する連作短篇集です。

−ボーダーライン事件
−窓辺の老人
−懐かしの我が家
−怪盗<疑問符>
−未亡人
−行動の意味
−犬の日

 ちょっとした怠け心が大きな謎を生んでしまった「ボーダーライン事件」、お年寄りのちょっとした見栄が悲劇を生んでしまった「窓辺の老人」と読み進めていくうちに、シニカルな展開を楽しんでいる自分に気づきました。

 とりわけ「怪盗<疑問符>」では、ある女性が自分の身の回りを世話してくれるお気に入りのメイドが仕事を辞めてしまわないように取り計らったつもりが、キャンピオン氏が謎解きに乗りださなければ、大変な不幸が身にふりかかってしまうところまで追い詰められてしまうありさまです。

 ミステリ短篇集は、長篇と違って読者をミスリードする手がかりをあちこちに埋めたりするボリュームがないだけに少し物足りなく感じることが多いのですが、この短篇集は、「どうしてそんなことに……」という意外性と登場人物の個性に惹かれて、もう一篇もう一篇と読んでしまい、途中でやめられなくなってしまいました。
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2014年11月28日

「USAカニバケツ:超大国の三面記事的真実」

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町山 智浩 著
筑摩書房 出版

知ってても偉くないUSA語録」「教科書に載ってないUSA語録」「キャプテン・アメリカはなぜ死んだか」に続いて、同じ著者の古い本を読んでみました。

 タブロイド紙やテレビのバラエティ番組など身近な話題が多いのは、いままで読んだものと同じです。今回もっとも印象に残ったのは、フットボール選手です。

 アメリカ人がフットボールに熱中する度合いは相当なものだというのは、「冬そして夜」という小説を読んだときにも驚いたのですが、今回も驚きました。有名なフットボール選手なら何でも許されるくらいの勢いでちやほやされているようです。叱られたり、周囲に気を配ったりすることもなく、良識のない大人になりやすいという、考え方によっては悲惨な環境におかれているようです。日本において、これほどちやほやされる人たちは、どういった分野の人かと考えてみましたが、思いつけませんでした。

 1990年代終わりから2000年代初めが初出の記事がまとめられた本なので、さすがに少し古さを感じました。もうこれ以上遡って読む必要はないかなと思いました。
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2014年11月27日

「昨夜のカレー、明日のパン」

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木皿 泉 著
河出書房新社 出版

 ほのぼのとした連作短篇集です。字数として少ないというだけでなく、とてもビジュアルな描写でサクサクと読めます。解釈に迷いが生まれないというか、行間を読むという作業がないというか、そんな感じです。

 帯にあるように、実績ある脚本家がはじめて書いた小説らしいので、映像のお仕事に慣れた方は、読者がみな同じイメージをもてるように文章を書かれるのかもしれません。

 タイトルの昨夜のカレーと明日のパンは、登場人物ふたりの象徴であり、日々の暮らしの象徴であり、そのわかりやすいタイトルに沿って、次の短篇が続きます。

−ムムム
−パワースポット
−山ガール
−虎尾
−魔法のカード
−夕子
−男子会
−一樹

 女子会ということばは、市民権を得た感じがありますが、男子会ということばには、人が共通してイメージできるものがありません。この男子会は、中堅にあたる世代の男性と定年少し前の男性のふたりが共有する秘密です。当事者ふたりは懸命でも、漂う雰囲気は滑稽という、ほのぼのとしたエピソードです。こうして人と人はつながって、距離を縮めていくんだなと、妙に納得してしまいました。男性と女性のコントラストも活きていて、わたしの好みでした。
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2014年11月26日

「ディッキーの幸運」

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E・ネズビット (E. Nesbit) 著
井辻 朱美/永島 憲江 訳
東京創元社 出版

 タイトルにあるディッキーという男の子が1605年と1907年を行ったり来たりするタイム・トラベル作品なのですが、同じように時間旅行を経験する、いとこ姉弟が登場します。どうやら、この姉弟が主人公となる「アーデン城の宝物」という別作品の続編として書かれたようです。そのためこの作品の前に「アーデン城の宝物」を読んでいると、よりわかりやすく楽しめると思います。ただその姉弟が登場するのは終盤になってからで、事前に読んでいないと困るほどではありません。

 子供に話しかけるように進むのですが、「対象読者はおとな?」と思える作品です。

 なにしろ、このディッキーという少年は、いい年をしたおとなの心配をしてあげるほどのしっかり者なので、共感できる部分があります。そして周囲の誰に対してでもいつも気を配っているのをみると、世渡りの気苦労が身につまされます。そのいっぽうで両親や弟のいる幸せを噛みしめたりする無邪気さも持ちあわせていて、ほのぼのとした気持ちに包まれることも。

 ただやはり、「もしかしたら自分もディッキーのように時間旅行ができるかもしれない」と心の奥底で少しばかり信じることができる年代に読んでいたら、わくわくできたろうに……と思いました。
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2014年11月15日

「高く孤独な道を行け」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
東京創元社 出版

 主人公ニール・ケアリーが中国に身を潜めなければならない立場に陥って終わった前作「仏陀の鏡への道」からあっさり三年もの月日が流れ、今作が始まります。24歳だったニールは、27歳くらいのはずで、しかも探偵として3年ものブランクがあることになります。

 しかし作品のなかでは、3年のブランクを感じさせない粘りを見せています。美しい女性に翻弄された前作とは異なり、人を騙してでも任務をまっとうしなければならない潜入工作員として、ひとりの幼い子供を守るために、立派に責務を果たそうとします。人として探偵として、ひと皮むけた印象を受けました。

 しかも今作は、ニールが父として探偵の師として尊敬するグレアムやニールを目の敵にするエドも大活躍で、相手方と互角にわたりあっている点が読み応えがありました。

 ニールがこの先どのように成長していくのか、気になりますし、次作も読みたいと思います。