2014年12月25日

「赤い右手」

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ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ (Joel Townsley Rogers) 著
夏来 健次 訳
東京創元社 出版

『このミステリーがすごい! '98』の海外部門第2位となった作品です。

 青年外科医が、患者宅を訪ねた帰りに事件に遭遇し、その犯人を特定すべく、知りえたことをノートに書きとめるという設定で語られます。事件が進行中なので、次の被害者をだしたくないという焦燥感が伝わってくる、勢いのある作品です。

 その焦燥感にあおられて読んでいるせいか、この事件の最大の謎のように見えていることも冷静に考えれば、わたしにも外科医と同じ結論を導きだせそうなものなのに、思い浮かびませんでした。(意味ありげに描写されている偶然の連続に気をとられたり、順不同で描写される出来事を頭のなかで時系列に並び替えるのに忙しかったり、外科医の思い込みというミスリードに引っかかったりと、たいしたことはないのに「大変だ! 大変だ!」と騒ぐ人にのせられてしまったような感覚です。)

 実際のところ、その焦燥感というか勢いを楽しむ作品で、いわゆる<バカミス>に分類されているそうです。読み終えて冷静な状態に戻るとあちこち突っ込みたくなるというか、そういうドタバタ感がこの作品の良さのひとつだと思います。読んでいるあいだは、独特の世界を満喫できました。
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2014年12月22日

「ウォータースライドをのぼれ」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
東京創元社 出版

 ニール・ケアリーを主人公とする当シリーズは、今作より前に三作ありましたが、それらとはまったく異なる仕上がりになっています。

 これは、前作「高く孤独な道を行け」の翌年、ニールが29歳くらいの作品です。それまでのあまりに幸薄い印象とはうってかわって、前作で付き合いはじめたカレンと幸せに暮らしているニールのところに養父グレアムがあらわれます。いつもながら探偵業から足をあらいたいと願うニールに、テラスをつくる資金にするため仕事を請けようと言い出すのは、カレンです。

 こうしてふたりの幸せのために仕事を請けたニールの案件は、終始コミカルに進みます。ニールがのっぴきならない状況に陥るのも、人が死んでしまうのも、いままでと変わりませんが、これまで見られなかったタイプの登場人物が勢ぞろいし、ニールを振り回すのです。

 加えてニールが、カレンの未来の夫ニールとして、カレンの意向を汲んだ決断をした結果、意外な結末を迎えることになり、シリーズの方向性が大きく変わりました。ここでシリーズ終了となっても良さそうな結末ですが、もう一作あります。気になるので、シリーズ最終作品まで読んでみたいと思います。

2014年12月21日

「ゴースト・ヒーロー」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
長良 和美 訳
東京創元社 出版

 いつものビルとリディアのコンビに、「永久に刻まれて」の「春の月見」で登場した、美術関係に詳しい探偵ジャックが加わって、いつもとは違う雰囲気で進行します。

 ある美術作品を探すという調査依頼なので、ジャックは脇役というより、調査の方向性を決める判断力を備えたチームメンバーのように見えます。そのため、シリーズ11作目は、これまでの基本パターンが破られた印象を受けました。これまで長篇を10作読んできたわたしから見れば、読みなれたビルとリディアの活躍が少なくて残念です。

 ただシリーズ作品は、マンネリズムに陥りやすいので、その観点からは評価できると思います。また今回は、歴史的事件を背景にしている点や国務省や総領事館の思惑が絡んでくる点から、かなり国際的な事件になっていて、ビルやリディアが扱う事件に広がりが見られた点も読み応えがありました。

 これで当シリーズ作品をすべて読み尽くし、新作を待つ状態になりました。今後、ジャックがどう関わってくるのか、ビルとリディアの関係に進展はないのか、その2点が気になります。

2014年12月20日

「日本人のための日本語文法入門」

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原沢 伊都夫 著
講談社 出版

 日本語を使っていても、他言語と比べたときの日本語の特徴を知っていたわけではないので、この本を読んで得るものは大いにありました。

 この本の冒頭で説明されていますが、日本語を使えるようになるために外国の方が学ぶ日本語文法とわたしたち日本人が学校で習った国語文法(学校文法)は、違うものだそうです。学校文法は、古典との継続性における形式的な面が重視されているため、言語学的な整合性に欠けているそうです。

 その意味するところは、章を経るごとに理解が深まるようになっています。

 また、学校で習った文法の難解なイメージに比べて、拍子抜けするほどすっと頭に入ってきます。それはおそらく理屈がとおっているから理解しやすいということだと思います。

 目から鱗が落ちたと思ったのは、文の構造のとらえ方です。文には、核となる述語、その述語と(基本的に)格助詞でつながった成分があるという考え方です。

 格助詞は、ヲ、二、マデ、ガ、ヨリ、カラ、デ、ヘ、ト(『鬼までが夜からデート』という語呂合わせで覚えられるそうです)の9つがあります。

 この格助詞のついた成分が文のなかで出現する順序は、厳密には決まっていませんが、述語によって必須成分と随意成分にわけられます。

昨日太郎が食堂で友達とラーメンを食べた

 上記の例文では「食べた」という述語には「太郎が」と「ラーメンを」という2つの成分が必須です。食べたは目的語を必要とするので、何を食べたかという成分と誰が食べたかという成分が必須で、残りのいつ、どこで、誰とをあらわす成分は随意というわけです。この文の構造の説明は、わかりやすいと思います。

 ここで、述語は登場したけど主語は? 「ガ」と区別が難しい「ハ」は格助詞に入らないの? などといった疑問をもたれた方には、ぜひ読んでいただきたい本です。
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2014年12月06日

「この声が届く先」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
長良 和美 訳
東京創元社 出版

 ビルとリディアのシリーズ10作目は、ビルの視点で描かれていて、リディアはほとんど登場しません。というのも、リディアは誘拐監禁され、ビルがその居場所をつきとめる役目を担っているからです。

 そしてビルの助っ人となるのは、「冬そして夜」にも登場して鍵となる情報を見つけだした、リディアの親戚ライナスと彼の女友達トレラです。ライナスは、IT分野に明るく、ハッカー仲間などの人脈も広く、Twitterを駆使するといったビルが思いつきもしない方法でリディアの捜索に協力します。

 このシリーズでお馴染みとなったリディアとビルの捜査の運び、つまり見落としがないかを相棒同士でチェックしあう仕組みがない状態をライナスとトレラが補う方法が新鮮でした。そして緊迫する状況のなかで、癒し系としての存在が際立つライナスの飼い犬ウーフも、読者を和ませつつ、事件解決に貢献します。

 シリーズも10作目となると新鮮味が薄れてくるので、こういう脇役の登場は、効果的だと思います。