2015年06月25日

「中央構造帯」

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内田 康夫 著
講談社 出版

 2時間枠のテレビドラマで見かける浅見光彦シリーズのひとつです。このシリーズに人気が集まる理由が漠然とですが、わかった気がします。主人公があまり饒舌に語らず、いろんな要素がバランス良く組み込まれている点が好まれているのではないでしょうか。

 主人公は、フリーランスのルポライターで、兄が警察庁刑事局長という立場にあるものの、自身は法の遵守を掲げる立場をとらず、柔軟に人々を助けている点が読者の共感を呼ぶのではないかと思います。また、この作品では、バブル崩壊後に銀行内部で行われた隠蔽工作が描かれると同時に平将門のエピソードも盛り込まれていて、適度な薀蓄が魅力になっています。過去の暗い面と一緒に再生の兆しも描かれていて読後感も悪くありません。

 そうはいっても、戦争のときといい、バブルのときといい、上に立つ人間ほど襟を正すべきときに調子にのってしまうというのは、情けないものです。わたしたちは歴史から学ぶべきことがまだまだありそうです。
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2015年06月24日

「コミュニティ・デザインによる賃貸住宅のブランディング」

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長沢 伸也/小宮 理恵子 著
晃洋書房 出版

 もともと日本では住宅に対する新築信仰が強いうえ、少子高齢化を伴う人口減少が進むなか、すでに空き家が増え過ぎていて、政府もその対策に手をつけざるを得ない状況にあります。

 当然賃貸住宅も、人気のある物件と空室が続く物件に分かれている状況です。そうなると、価格競争に陥りがちですが、本書で取りあげられているのは、シェアハウスという形態をとって心地良いコミュニティを提供し付加価値を高めることによって、近隣相場より高価格な賃貸住宅を実現している実例です。

 紹介事例は、かなり限定的ですが、それでも各シェアハウスが掲げるコンセプトやコミュニティの雰囲気はある程度伝わってきました。ただ、その仕組みを知って正直なところ驚きました。一番驚いたのが、シェアハウスに合うかどうか、入居前に面談があるという点です。なかには入居後にも面談があり、そこで合わないとなると契約が終了となる定期借家契約になっているようです。それだけ売り手市場状態にあるということでしょう。

 もちろんそれは、シェアハウスが支えるコミュニティの価値がそれほど高いと運営側が自負すると同時に、入居者たちからも高い評価を得ていることの証だと思います。そうはいっても、ここ半世紀ほどのあいだ、プライバシーの確保が高い優先順位で扱われてきただけに、意外でもありました。
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2015年06月15日

「勝者が一瞬で敗者になる時代のサバイバル術」

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山本 真司 著
PHP研究所 出版

 サバイバル術と言われると、テクニックやスキルを思い浮かべてしまうのですが、この本で説かれている内容は、時代が変わっても、持ち続けるべき信念のようなもので、こういう状況下ではこうすべきという類のハウツー本ではありません。

 特定の組織や管理者に対してのみ有効な方法を模索するのではなく、また短期決戦ではなく長期的に見て結果を出し続けるための思考を身につけるといった考え方のようです。

 利己主義に凝り固まっていると、やがては行き詰ってしまうということは、わかる人には当たり前にわかる道理ですが、利己主義は合理的だと心から信じている人には、この本は響かない気がします。

 わたし自身は共感する部分が多く、ここに書かれてあるようなことが学生時代に会得できていれば……と思わないでもありませんが、やはりわたしは、ひとつひとつ経験してやっと理解できるレベルのような気がします。
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2015年06月14日

「出版禁止」

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長江 俊和 著
新潮社 出版

 帯には、「日本全国のミステリ愛好家へ。秘密をすべて解ける者、求む!」とあり、密室トリックを解いてみろと問う推理作家による小説のように見えなくもないのですが、実際に問われているのは、トリックではありません。一種の言葉遊びです。

 敢えてミステリに譬えるのなら、読者に密室トリックを披露するためだけに密室をつくりあげたミステリ小説のような作品です。ただし密室がつくりあげられたかどうかは不明です。その部分の客観的な描写が欠けていて、読者を巻き込むために必要とされるフェアな条件はありません。

 ちょっとした思いつきを本1冊分のページ数を割いて「どうだ! すごいだろ!!」と言っているだけのようで、わたしはあまりこの作品を評価できませんでした。どうやら世間の評価は分かれているようで、好みが分かれる作品なのかもしれません。
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2015年06月13日

「ラットランナーズ」

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オシーン・マッギャン (Oisin McGann) 著
中原 尚哉 訳
東京創元社 出版

 高度な監視社会となった近未来のロンドンが舞台です。そのせいかジョージ・オーウェルが書いた「1984年」を思い出しました。個人宅でもどこでも自由に出入りできる権限を有する《のぞき屋》と呼ばれる安全監視員が闊歩し、ありとあらゆる場所に監視カメラが設置されているという設定です。ただ、16歳未満の子供は、監視対象から外れているうえ、監視カメラから死角になっている少しばかりの抜け道をすばしこく走り回ることができるため、犯罪組織は、そういったティーンエイジャーに半ば無理やり汚い仕事をさせています。そんな子供たちがタイトルにあるラットランナーであり、この物語の主人公です。

 そんなラットランナーが4人で仕事を請け負うことになり、その過程で夢のような科学技術に遭遇します。本当に夢のような技術なので、すごいことはすごいのですが、そういうテクニカル面での描写ばかりが目立って、そういう技術を使って自分たちがしていることをどう受け止めているのかなど、情緒面というか、多感な年頃ならではの価値観などが思ったほどは描かれていないため、わたしとしては少々物足りない感じでした。

 サイエンス・フィクションの《サイエンス》の部分は、新しさがあって、楽しめました。
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