2015年09月29日

「7は秘密」

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リンジー・フェイ (Lyndsay Faye) 著
野口 百合子 訳
東京創元社 出版

ゴッサムの神々」の翌年(1846年)が描かれた続編です。前作は暑い盛りの時季、今回は凍える冬、前作はプロテスタントとカトリックの対立という宗教問題、今作は黒人問題と、前作と異なる点はいろいろありますが、前作同様、歴史小説としてもミステリとしても楽しめました。そして主人公のティムシーは、27歳から28歳になり、ただただひとりの女性に恋焦がれているだけの状況から、自身とその過去をそれまでより客観的に見られるという成長を遂げています。

 プロテスタントとカトリックの対立に比べ黒人問題は、その背景を含めてある程度理解しているつもりでしたが、それでもタイトルにある<秘密>には、驚かされました。歴史的なことがらとしてではなく、人びとの暮らしのなかのできごととして小説のなかに織り込まれると、伝わってくる悲哀も違うのかもしれませんが、うちのめされるような秘密でした。

 ミステリが好きな方にもアメリカという国に興味がある方にも、お勧めしたい作品です。
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2015年09月26日

「ゴッサムの神々」

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リンジー・フェイ (Lyndsay Faye) 著
野口 百合子 訳
東京創元社 出版

 バランスよく楽しめた作品です。1845年、ニューヨークに警察ができて最初に登用された人々が描かれているため、歴史小説としても読めますし、もちろん殺人事件を解くミステリとしても読めますし、切ない恋愛感情も交えながら、悲しい過去と苦しい時代を乗り越えていく成長物語としても読めると思います。

 わたしが惹きつけられたのは、1845年のニューヨークが舞台になっている点です。ニューヨークは、いまの摩天楼と人種の坩堝が出来あがるまでのあいだに膨大な数の人々を飲み込みんできたはずなのに、その時代のことを考えたこともありませんでした。その急激に膨らんだ街と殺人事件の謎が絡みあう独特な世界が広がっていて、上下巻のボリュームが気になりませんでした。

 あとがきによると、この作品は三部作になる予定だそうです。この先も楽しみです。
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2015年09月25日

「村上海賊の娘」

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和田 竜 著
新潮社 出版

 2014年の本屋大賞受賞作品なので、いまさらですが、読んでみました。

 歴史小説にコミカルなテイストを持ち込む以上、ある程度の誇張は必要だとは思いますが、リアリティが薄れるいっぽう、そう面白く仕上がっていなくて、上下巻という量を読むのが少し厳しく感じられました。「のぼうの城」くらいのボリュームであれば、普段本を読まない、歴史小説を読んだことがない層をターゲットに、読みやすい作品になったのかもしれません。(といっても、ベストセラー作品なので、それだけですごいことではありますが。)

 海賊の海戦は面白い話題だと思いましたし、戦国時代で闘った娘も興味が湧く人物イメージではありました。ただ、過剰気味なこまごまとした説明を書くのなら、戦国時代の価値観に現代のそれを当てはめるのではなく、戦国時代の価値観そのものをもっと掘り下げるように書いて欲しいと思いました。
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2015年09月10日

「ボビーZの気怠く優雅な人生」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
角川書店 出版

 ドン・ウィンズロウの作品は何点か読んでいますが、これは、いままで読んだものとは毛色が違う気がします。あまりに都合が良すぎる偶然が重なったり、派手な撃ち合いが繰り広げられたり、小説なのに劇画を読んでいる雰囲気が味わえます。そうはいっても、人物描写などがやっぱり良くできていて、下手な劇画より楽しめます。

 タイトルのボビーZは、筋金入りのワルですが、この作品の主人公は、そのボビーZの身代わりになった男です。一面識もない人物の身代わりになるなど、そう簡単に事が運ぶわけがないのですが、あっさりと事は運んでしまいます。そしてボビーZが陥るべき窮地にあっさりと陥ってしまいます。しかも巧妙に仕組まれた罠に。

 かなり悲惨な状況設定ですが、悲壮感はなく、読んでいて楽しくなる展開です。都合が良すぎるとはいえ、派手なハッピーエンドも絵になっていました。

 ドン・ウィンズロウの作品は、それぞれ雰囲気が違っていて飽きないのですが、この劇画風もユーモアがスパイスのように効いていて、ほかとは違った味わいでした。

2015年09月01日

「フランキー・マシーンの冬」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
角川書店 出版

 タイトルのフランキー・マシーンは、主人公フランク・マシアーノのニックネームです。機械のように正確な仕事をするという評判から、そう呼ばれるようになった男性です。60代になり、自身の体力的衰えを自覚しつつも、それに抗いながら、日々自ら決めたルールを守り、元妻とも娘ともガールフレンドとも円満にやっていこうとする彼の語り口は実に絶妙です。

 そして物語の展開も絶妙です。ややこだわりが強すぎる性格とはいえ、一緒に趣味を楽しむ仲間がいて、地域の人々からも愛され、娘が医者になるための学費を稼ごうと地道に仕事に励んでいるフランクの過去が徐々に明らかになるにつれ、次は主人公のどんな一面を見ることになるのかと惹きこまれてしまいます。フランキーの人物像があまりによくできていて思わず唸ってしまいました。