2015年10月23日

「恐怖の谷」

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アーサー・コナン・ドイル (Sir Arthur Conan Doyle) 著
深町 眞理子 訳
東京創元社 出版

 いままでわたしが読んだシャーロック・ホームズのシリーズにはない2部構成です。前半の「第一部<バールストン館>の惨劇」は、読者が期待するとおり、シャーロック・ホームズが不可解な事件を解き明かします。ただその謎解きで、そう都合よく稀有な条件が揃うわけがないと読者が思っているところで突入する後半「第二部スコウラーズ」では、稀有な条件が揃った背景が解き明かされます。

 読むまえから期待しているホームズの謎解きも、もちろんよかったのですが、後半部分の意外な展開は、ホームズの謎解きがなくても、じゅうぶん楽しめました。なにより、前半部分でそう都合よく稀有な条件が揃うわけがないと思う読者をある程度納得させられますし、窮地(前半でホームズが登場しなければ乗り切れたであろう窮地)を咄嗟の機転で乗り切ろうとした主人公の豪胆さもよく描かれていて、よくできているとしか言いようがありません。

 ストーリー展開において年代の辻褄が合わないなど、うっかりミスはあるようですが、それでも100年もまえに、こんなエンターテイメントがあったというのは、すごいことだと思います。
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2015年10月22日

「R.P.G.(ロール・プレーイング・ゲーム)」

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宮部 みゆき 著
集英社 出版

 ぐいぐいと惹きよせられたものの、最後に騙されていたと知ったときは、あまりに型破りな終わり方で、落胆すべきなのか、怒るべきなのか、よくわかりませんでした。でも、タイトルのR.P.G.(ロール・プレーイング・ゲーム)に二重の意味があったことに気づいたときは、練られた作品であることは間違いないと思いました。

 この型破りな方法は、読者を肯定派と否定派に真っ二つに割るのだと思います。わたしは、実験小説としておもしろいと感じたので、肯定派です。そうはいっても、作者が破ったルールが守られないとなると、作者と読者の対話が壊れてしまう気がして残念でもあります。

 それでも、ぐいぐいと惹きよせられるだけの人物描写があったので、これからもこの作家の作品は読むと思います。とりあえず、この作品の主人公のひとりが最初に登場した「模倣犯」という作品を読んでみたいと思います。
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2015年10月21日

「夏の沈黙」

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ルネ・ナイト (Renée Knight) 著
古賀 弥生 訳
東京創元社 出版

 小出しにされる過去の断片をつなぎあわせながら読み進めていくのは、楽しいプロセスでした。そのいっぽう、すべてを読み終えた読者を驚かせるための意外な真実を用意しようとするあまり、登場人物の人物像がうまく成り立っていないようにも感じました。

 実際、人というものは理屈では割り切れないものですし、意外な側面を見せることは多々あります。でも、他者の尊厳を簡単に踏みにじった直後、天使のような振る舞いに及ぶのには、なにか描写が必要だと思います。また、自分にとって都合のいい憶測に執着していた人物が、一瞬にして真摯に現実と向き合えるようになったのも不自然に感じられました。ただ、何十年と連れ添った夫婦であっても、伴侶のことを意外に知らないという点は、向き合うことなく一緒にいるだけのふたりなら、ありえるのかもしれないと思いました。

 そうはいっても、結末で語られる意外な真実には確かに驚かされましたし、各国で翻訳されるほど話題になったのも充分に納得できました。
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