2015年11月26日

「赤い月」

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なかにし 礼 著
文藝春秋 出版

 満州国の盛衰に翻弄されながらも、自らの感情に素直に生きた女性(作者の母親がモデル)の物語です。昭和初期、女性が家に縛られていた時代に結婚していながらも恋を追い求め、騒乱の世において何がなんでも生き抜こうとする姿はドラマチックではありますが、なんとなく薄っぺらな印象を受けました。

 満州国に渡る以前の恋愛、渡ってからの右肩あがりの発展、諜報活動の密告、敗戦とその後の引き上げなど、あまりに多くのできごとが作品のなかに詰まっていて、登場人物にこまやかな感情の動きが見られないことがその原因かもしれません。やや物足りなさを感じました。
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2015年11月15日

「女子芸人」

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神田 茜 著
新潮社 出版

 作者は、講談師です。これが2作目の小説で、2010年に新潮エンターテイメント大賞(2012年を最後に打ち切られた賞)を受賞しています。

「さすが芸人さん!」と思うユーモアのきいた場面もありますが、なんとなく締まりのない印象が拭えません。芸人さんという見慣れない職業の女性であっても、優等生のような良い子が悩んでいる姿が表面的に描かれていても、そう面白くはならないのだと思いました。いつの時代の誰の身にも当てはまるようなちょっとした不満や後悔を描くなら、もう少し違った視点が欲しかったように思います。
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2015年11月14日

「アメリカミステリ傑作選 2003」

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ローレンス・ブロック/オットー・ペンズラー (Lawrence Block/Otto Penzler) 編
DHC 出版

バースデイ・ストーリーズ」でラッセル・バンクスを知り、もっと読みたいと思ったのですが、あまり日本語になっていません。そうしたら、この短篇集をくださった方がありました。ラッセル・バンクスの「ロブスター・ナイト」が載っています。ただ、「バースデイ・ストーリーズ」では、ダントツで気に入ったラッセル・バンクスですが、今回は、そうでもありませんでした。わたしには、点と点をうまく結べない流れというか展開で、もう少し説明が欲しかったように思います。

 ここに収められている20篇のなかから、好きな作品を3つ選んでみました。(これもミステリなのかと驚くような作品も含まれていますが、以下はいずれもミステリ短篇集に違和感なく収まるミステリです。)

『容疑者』クラーク・ハワード 著、芹澤 恵 訳
意外な犯人に驚く作品です。ところどころにヒントが隠されているものの、それでも驚かされてしまうプロットではないでしょうか。ほんの少ししか登場しない人物も含め、その描写も気に入りました。

『大きなひと噛み』ビル・プロンジーニ 著、黒原 敏行 著
IT化が進む時代のなかにあって、アナログに本領を発揮できる熟練探偵が、長年の経験からくる勘をたよりに一挙に全体図を描きだすものの、なんとも切ない結末を迎えます。

『エリーの最後の一日』スティーヴ・ホッケンスミス 著、熊谷 公妙 訳
勤務最後の日、つまり、いまさら何をしても大きく変わらないと思われる日に、もうひと踏ん張り捜査をしようとある事件を選んで出かける警官に親近感がわくと同時に、描かれていない彼の内面を読みとることができます。
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2015年11月13日

「ホテル1222」

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アンネ・ホルト (Anne Holt) 著
枇谷 玲子 訳
東京創元社 出版

 閉じられた空間を舞台に殺人事件が起こる、いわゆる孤島ものです。

 タイトルのホテル1222は、このミステリの舞台となった<フィンセ1222>(ノルウェーに実在するホテル)からきています。氷点下20度を超える極寒のなか、嵐で脱線した列車の乗客がみな、このホテルに避難します。救助隊が来られるようになるのを待つあいだに事件が起こります。

 そして謎解きをするのは、かつて警察官だったハンネ・ヴィルヘルムセンという女性。職務中の負傷が原因で車椅子生活になったハンネは、人との距離をとろうとしてホテル従業員とも避難仲間とも打ち解ける様子はなく、人当たりがいいとはいえない行動をとるものの、優れた観察眼をもって最終的には、事件を解決に導きます。

 ただ、ミステリとしてはそう高く評価できる作品ではないと思います。この作品で楽しめるのは、謎解きではなく、ハンネの眼を通してみる人々ではないでしょうか。法律を笠にきて権利を声高に主張する有名人、見ず知らずの避難仲間相手に宗教を振りかざす教会関係者、何かにつけ反抗する男の子、最善を尽くそうと頑張るホテル関係者など、個性的な面々が、閉じ込められた空間でお互い関わっていくさまが細かく描かれています。平常時なら交わることのない人々の関わりは、いろいろ考えさせられるところがありました。

 このハンネシリーズは、これで8作目だそうです。巻末の解説によると、7作目の「凍える街」は現在も読むことができ、1作目から3作目までは絶版状態、4作目から6作目は未訳だそうです。主人公のハンネがどのように警官としてのキャリアを積んできたかが読めないと、ハンネの回想部分は、そう楽しめないかもしれません。
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2015年11月12日

「模倣犯」

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宮部 みゆき 著
小学館 出版

R.P.G.」で事件を解決に導いたデスク係という警察官が、先にこの作品に登場していたということで読んでみました。ミステリで警察といえば刑事を思い浮かべるのですが、このデスク係は後方支援部隊で、捜査上で判明した事実を記録したり諸々の申請書類を作成するのが役割で、捜査はしません。あまり見かけない警察官なので、興味をもったわけです。

 1000ページを超す大作で、途中、読むのが辛くなった部分もありました。いわゆる警察小説のように犯人を追う警察の捜査が軸になっているわけではなく、犯人が自分たちの理屈を詳細に語る部分がかなりあって、自分たちは歴史に残る犯罪を成し遂げる才能ある特別な人間だと滔々と語る場面が続くと、うんざりしました。

 ただ、そういった犯罪者の思い込みを描ききらないと、タイトルの模倣犯が意味するところを理解できない仕組みになっています。最後の最後に模倣犯の意味するところがわかったとき、警察側の中心人物が刑事ではない理由もわかります。緻密な作品で、1000ページ以上も読む価値はあった気がします。
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