2016年03月22日

「オータム・タイガー」

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ボブ・ラングレー (Bob Langley) 著
東江 一紀 訳
東京創元社 出版

 主人公のタリーは、第二次世界大戦時に工作員として活躍し、その後CIAの管理職としてキャリアを積んだという経歴の持ち主です。そして4日後に退官することになっているいま、東ドイツ諜報機関の大物が、アメリカに亡命するにあたって、タリーの立ちあいを求めました。工作員を退いて30年以上経ったいま、なぜ自分が指名されたのかという謎がタリーの前に突如あらわれたわけです。

 もちろん結末では、その謎がすべて明かされるわけですが、そこには戦争という非常事態における国同士の駆け引きという側面とそのなかに巻きこまれてしまえば為す術もなく自由意思を奪われる国民の悲哀という側面があり、スパイ小説のスリルだけでなく、人間の良心や恋愛感情から生まれるドラマも楽しめます。

 国の命運がかかった責務を背負っていても、人としての感情が自然と沸き起こるあたり、戦争の辛さをあらためて感じました。ただ、その戦争が終わっても、国民は、奪われたものを取り返すこともできません。感情を抑え、生をまっとうした個人の切なさなど、来し方を振り返る心情が巧みに描かれていました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする