2016年04月29日

「今朝の春」

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高田 郁 著
角川春樹事務所 出版

想い雲」の次にあたる、みをつくし料理帖シリーズ第四弾です。料理人である澪は、倹しい暮らし向きの人でも通える料理屋で料理をする庶民という位置づけで前巻まで進んできました。それがここにきて料理屋を一流にして富を得るという大変な目標が掲げられ、この先はサクセス・ストーリーへ転ずる気配も感じられるようになりました。

 現代を舞台にすれば描きにくいことを描くのが時代小説の特徴のひとつであると、そう理解していても、少しばかり寂しい感じもしました。

 お料理のほうは、いままでと変わることなく美味しそうなものが次々と登場します。異色なのは、ほうき草の実です。古くは飢饉食として食べられていたそうです。読んでいてピンときませんでしたが、巻末のレシピで『とんぶり』とあって、本来は食べるものではなかったということを初めて知りました。みをつくし料理帖シリーズのメニューを再現した食堂を誰かつくってくれないかと思いました。
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2016年04月28日

「Joyland」

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Stephen King 著
Hard Case Crime 出版

 21歳の男子大学生がアルバイトをしながら過ごした夏休みとそれに続く秋のできごとが描かれた作品です。失恋をしたり、一生付き合いの続く友人を得たり、その大学生の成長が描かれているだけでなく、殺人事件の謎解きや霊というスピリチュアルな世界などの要素も加わって、盛りだくさんな内容になっています。

 タイトルにある Joyland は、大学生のアルバイト先の名前です。ディズニーランドのような大型テーマパークではない、大きめの移動遊園地といった風情の夏季限定遊園地です。21歳の大学生が、時を経て老境にさしかかり、かけがえのないひと夏の思い出を振り返るスタイルで書かれている本作において、この Joyland は、古き良き時代の象徴であり、彼にとっての忘れがたい思い出の象徴でもあります。

 そして何より、もう二度と現実に行くことができない、心のなかだけで存在しつづける場所であり、それは二度と会えない人々とも重なります。切ない物語でした。
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2016年04月08日

「品のある人、品のない人」

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中谷 彰宏 著
ぱる出版 出版

 品よくするとはどういうことか、なんとなく理解できていても、いざ誰にでも頷いてもらえるよう説明するとなれば、とても難しいと常々感じています。

 それでそのヒントを得るべく読んでみましたが、やはり品を定義するのは難しいようです。この本では、こういうことは品がないという説明が並び、それらを避けていけば品よくなれるというアプローチがとられているようです。その限られた説明でさえ、そのとおりだと思うケースもあれば、首を傾げたくなるケースもあります。

 そういう視点で人を判断する人もいると参考にするのはよいと思いますが、やはり人の受け売りではなく、品よくするためには日々自分で考えていくしかないような気がしてきました。
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2016年04月05日

「ゆうじょこう」

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村田 喜代子 著
新潮社 出版

 数えで15の女の子が明治38年の春に熊本の遊郭に売られてきてからの2年足らずを描いた作品です。イチという名のその女の子は、廓のなかにある学校で、女性教員である鐵子さんに宛てて日記のようなものを書きます。作品の軸となっているそのイチの手紙のような日記は、イチが見聞きして感じたこと、やり場のない怒りや悲しみなどがお国訛りで綴られています。

 読む側の鐵子さんも、かつて廓に売られてきた身だからか、イチの気持ちを理解しながらも、口を出すことなく静かにイチを見守ります。イチの感じる辛さや切なさを知り尽くしているのでしょう。

 アメリカの農園を支えた奴隷制度も、人が人を売り買いする悲しい仕組みでしたが、親が自身が生き延びるために子を苦界に売り飛ばす世の仕組みは、さらに切なく感じられました。

 帰る家さえも失ったそんな状況にありながら、イチが考えることをやめなかった結末に、ほんの少し救われました。
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