2016年06月25日

「麒麟の舌を持つ男」

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田中 経一 著
幻冬舎 出版

 タイトルの麒麟は、想像上の生き物のほうのキリンです。それほど卓越した舌を持つ男は、一流の料理人ですが、経営していた店の借金を背負い、思い出の食事を人生最後に食べたいという願いを叶える仕事で細々と借金を返済する日々です。

 そんなとき、莫大な報酬をエサに奇妙な依頼が舞いこみます。その奇妙な依頼は、簡単には実現できそうになく、その行方を知りたくて読み進めるものの、結末には、その依頼には別の目的があったことが明かされます。

 その意外な結末に向かって巧みに伏線が張り巡らされていて、料理と家族愛という軸のほかにミステリとしての軸もしっかり存在を主張していました。
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2016年06月24日

「アルケミスト」

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パウロ・コエーリョ (Paulo Coelho) 著
山川 紘矢/山川 亜希子 訳

 読書会イベントで実施された本のプレゼント交換でいただきました。スピリチュアル系小説なので、どちらかといえば苦手な分野ですが、羊飼いの暮らしぶりや旅の描写が思いのほか魅力的で、するすると読めました。

 25周年記念の特別装丁であることも、この本がプレゼント交換に選ばれた理由のひとつかもしれませんが、サンチャゴという主人公の少年が周囲に導かれ素直に自らと向き合う姿に、温もりを感じました。モノと情報に溢れた現代に生きるわたしたちは、溢れかえったモノや情報に振りまわされ、自分と会話することを忘れているのではないかというメッセージを込めてプレゼント交換に選ばれたのかもしれません。
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2016年06月23日

「ミリオンズ」

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フランク・コットレル・ボイス (Frank Cottrell Boyce) 著
池田 真紀子 訳
新潮社 出版

 少し古い本なので、設定も少し古く、通貨にユーロが導入される直前に焼却処分される予定の古い貨幣が盗まれ、その一部がひょんなことからある少年に渡り、あれやこれやのハプニングが引き起こされるというものです。

 その大量の紙幣を拾った少年は、ダミアンという小学五年生で、ありとあらゆる聖人に精通しているものの、まったく空気を読めない風変わりな子です。そしてダミアンの兄アンソニーも弟に負けず個性的で、家を帰る場所だとか住処とかではなく優良資産と捉えるような現実的な子です。

 そんな対照的な兄弟が、ああでもないこうでもないとお金の使い道を考える場面には、ときおり耳が痛くなるような風刺がきいていることもあったり、ハチャメチャなようでいて考えさせられることもあります。映画化されたそうですが、映像のほうがハチャメチャぶりのインパクトが大きくなって、より楽しめたのではないかと思えた作品です。
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2016年06月09日

「地球の中心までトンネルを掘る」

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ケヴィン・ウィルソン (Kevin Wilson) 著
芹澤 恵 訳
東京創元社 出版

 以下が収められている短篇集です。

−替え玉
−発火点
−今は亡き姉ハンドブック:繊細な少年のための手引き
−ツルの舞う家
−モータルコンバット
−地球の中心までトンネルを掘る
−弾丸マクシミリアン
−女子合唱部の指揮者を愛人にした男の物語(もしくは歯の生えた赤ん坊の)
−ゴー・ファイト・ウィン
−あれやこれや博物館
−ワースト・ケース・シナリオ株式会社

 揃いもそろってみな、現実味の薄い設定でありながら、描かれている心情としては、部分的に強く共感したり、納得できたりする作品ばかりです。

 たとえば、「地球の中心までトンネルを掘る」では、3人の若者が身近な道具でどんどんトンネルを掘るのですが、実際そんなことはできそうにありません。でも、その3人の若者が、それぞれカナダ史で、ジェンダー学で、モールス信号の研究で学位を修めたものの、社会に出て経済的に自立するために必要なことは学んでこなかった事実に大学を卒業して初めて気づき、自分自身をもてあます心情には寄り添えます。また、教育機関と社会生活が乖離している不条理さも理解できます。

 こういう滑稽な状況設定とリアルな心理描写は、終始現在形で語られる文体と妙にマッチしていて、独特の臨場感が感じられ、楽しめました。
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