2016年11月18日

「A Redbird Christmas」

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Fannie Flagg 著
Vintage Classics 出版

 (アメリカの) Amazon.comでは、500件を軽く越すレビューが書かれているので、ベストセラーと呼んでもいいと思います。ただ、それらレビューの高評価には、あまり同意できません。タイトルにあるとおりクリスマスのお話なので、クリスマス・ストーリーの原則どおり「めでたし、めでたし」で終わるべきだということを頭では理解していても、ここまで幸せの大盤振る舞いになると少々興ざめしてしまいました。

 物語は、孤児として育った中年男性 Oswald が肺を患って余命宣告を受け、寒さ厳しいシカゴを出て、アラバマへと引っ越すところから始まります。新天地で、さまざまな人や生き物にであい、それまで縁のなかった居心地のいい時間を過ごし、好きなことを見つけ……と展開していきます。

 登場人物それぞれの個性が際立ち、都会では見つけづらい穏やかなコミュニティの描写も優れていて、読むのが楽しかったのですが、それでも畳みかけるようなハッピー・エンドは、好きにはなれませんでした。クリスマス・ストーリーのあるべき姿を理解できていないだけかもしれませんが、わたしの気持ちとしては、ちょっぴり残念でした。
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2016年11月17日

「料理でわかるヨーロッパ各国気質」

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片野 優/須貝 典子 著
実務教育出版 出版

 国民の気質と料理の関係性に着目して、ヨーロッパ各国を紹介する本で、次の国が掲載されています。

 1. イギリス 2. フランス 3. オランダ 4. ベルギー 5. ドイツ 6. オーストリア 7. スイス 8. ギリシャ 9. イタリア 10. スペイン 11. ノルウェー 12. スウェーデン 13. ロシア 14. チェコ 15. ハンガリー 16. セルビア 17. クロアチア 18. ボスニア・ヘルツェゴビナ 19. マケドニア 20. トルコ

 地図上でココと指差すのが難しいほど馴染みのない国もありますが、なかには、聞きかじった話とここで解説されている内容が、つながるような国(オランダ、イタリア、スペインなど)もあります。

 オランダの場合、英語に "go Dutch" というフレーズに登場しますが、自分が飲食したぶんだけを自分で支払うこの方式は、日本でもランチのとき日常的に行なわれている方法です。しかしなぜ、この表現にオランダが選ばれたのでしょうか。その答えと受けとれるようなことが紹介されていました。

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オランダでは午前10〜11時と午後7〜8時の1日2回、コフィテイトと呼ばれるコーヒータイムがあり、このときコーヒーと一緒にビスケットを出す習慣がある。ホストがビスケットの缶のフタを開けて回すと、ゲストは順番に1枚ずつ取る。このとき間違っても2枚取ってはいけない。1人につきビスケット1枚、これはオランダ人が長い歳月をかけて培った暗黙のルールで、ここにオランダ人の心が凝縮されている。他方、カトリックが主流のオランダ南部では、2枚以上食べてもとがめられることはない。
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 南部以外のオランダでは、2枚目のビスケットが咎められるようです。ほかのどこの国でもなく、"go Dutch" となったのが頷ける気がします。

 次。イタリアの場合、イギリス人が "Oh, my God"(「おお、神よ」)と発するであろう場面で、イタリア人は "Mammma Mia" (この本では、「ああ、おっかさん」と訳されています) と叫んでしまうと説明され、溺愛されて育った息子は概してマザコンであり、奥さんの前でも「マンマのパスタが一番美味しい!」と、のたまうとか。

 最後。スペインの場合、冷製スープの「ガスパッチョ」のレシピが紹介されたあと、次のように続きます。

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スペインでガスパッチョが重宝がられるのは、別の理由がある。仲間意識が強く、集団行動をとるのが大好きなスペイン人は、レストランで食事をする際も大勢でわいわいやりたがる。しかし、時間にルーズな人々は三々五々とやって来るので、全員がテーブルに着くのはそう簡単なことではない。さんざん待たされた挙句、料理まで待たされたのではやり切れない。そこでスープは、すぐに出せるガスパッチョが尊ばれる。とりわけ国民料理のパエリアなどは、素材だけそろえておけば、あとは火にかけて20分間待つだけでいい。概して、スペイン料理に簡単調理が多いのは、スペイン人気質と無関係ではない。
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 似たような視点で、アジア各国の料理と国民性を紐づけた本もあれば面白いと思います。
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2016年11月13日

「羊と鋼の森」

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宮下 奈都 著
文藝春秋 出版

 高い評価を受けている作品のようですが、普段本を読んでいる人がわざわざ時間を割くほどの価値がある本とは思いません。おそらく、普段本を読まない人には、こういう本がおすすめ、という意味の評価(賞)ではないでしょうか。

 ただ、わたしはまったく評価しないと、いいたいわけでもありません。百聞は一見に如かずという言い回しがありますが、その逆もあると思います。音楽というものは、何度となく読むより、実際に聴いたほうが、巧拙といった比較的客観的なことがらについても、好みといった主観的なことがらについても、わかりやすいと思います。そういう分野を敢えてテーマに選び、筆で挑んだのは、おもしろいと思います(タイトルの羊と鋼はピアノを指し、駆け出しの調律師が主人公です)。

 しかし、肝心の筆力のほうは、直截的表現が目立ち過ぎて、物足りなさを感じました。わかりやすさを求める読者、十代あるいは二十代くらいの若い読者にはおすすめできても、それ以外の人におすすめするのは少し躊躇われる作品です。
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2016年11月12日

「日本の地価が3分の1になる!」

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三浦 展 著
光文社 出版

 インパクトのあるタイトルです。このタイトルの根拠となっている考え方は、老年人口(65歳以上)を生産年齢人口(20〜64歳)で割って求められる「現役世代負担率」と地価の関係です。「現役世代負担率」が大幅に上昇すれば、地価は大幅に下落し、地域によっては3分の1になる可能性もでてくるというものです。

 そう説明されると、そんなことは知らなかったと驚いてしまいそうですが、冷静に考えると両者の関係は想像がつきます。たとえばニュータウンということばであらわされる地域は、日本経済が右肩あがりで人口が都市に集中しだしたとき、都市周辺に一気に開発されました。最初は比較的お手ごろな価格で30代を中心とする世代が住み、人気が出て地価があがり、若い世代が移り住むことが難しくなって、かつて30代を中心としていた街が40年経過して70代を中心とする街になり、税収が減り、商業地域が減り、大幅に地価が下がるというシナリオです。逆に、昔から下町として知られる地域は、常に若い人の流入も流出もあり、土地が流通し、「現役世代負担率」の増加もニュータウンなどに比べると緩やかです。

 しかしこの「現役世代負担率」を正確に地域別にシミュレーションするのは極めて困難に見えます。相対的に差が発生すると、それを見て、人々の流れも変わりそうです。ただ、そのことを考慮しても敢えて地域別の具体的な数値を示したことは著者の警鐘ではないでしょうか。地価の大幅下落は実際に起こってもおかしくない話ですから。

 もうひとつ、本書では、この老年人口の定義を65歳以上から75歳以上に変えると、「現役世代負担率」が2040年でも2014年と同程度に維持できる、つまり大幅な地価の下落は起こらないという仮説も披露されています。これも65歳でのリタイアに対する警鐘でしょうか。

 読んでいると、住宅が資産形成になると当然のように思っていたころが懐かしく感じられました。
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2016年11月11日

「逆さの骨」

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ジム・ケリー (Jim Kelly) 著
玉木 亨 訳
東京創元社 出版

「水時計」「火焔の鎖」に続くシリーズです。主人公のフィリップ・ドライデンの妻ローラがどうなったのか気になっていたはずなのに、第三弾の出版を見逃していたらしく、友人から第三作を読んだと聞き、早速読みました。

 一番気になっていたローラですが、彼女の両親が住むイタリアに行く段取りを進めているという描写から、全快とはいえないものの、数時間ならベッドを離れられる状態まで戻っていることがうかがえます。前作で登場したCOMPASSという機会を使って、外部とメールをやりとりしたり文献を検索したり、ドライデンの調査を手伝うところまで回復していました。

 ただ、装置や看護は必要で、そうした妻をもつフィリップの負担や気持ちの変化が、今作でも巧妙に描かれていました。逃れられない現実や束縛、逃れたいと思う本音、本音を肯定できない苦しみ、そういった割り切れないものが、リアルに伝わるよう描かれていて、ミステリ以外の面でも満足できる作品です。

 暗い印象が残りがちなこのシリーズですが、今作では、自立心溢れる老齢の女性がドライデンや周辺人物の優しさに救われる部分があり、読後感は悪くありませんでした。
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