2017年04月08日

「人はなぜ笑うのか―笑いの精神生理学」

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志水 彰/角辻 豊/中村 真 著
講談社 出版

『笑い』というものが多角的に分析されています。どのような起源か、使う筋肉は何か、文化的にどのような役割を担っているのか、そういったさまざまな切り口で論点が展開されています。

 わたしが一番興味をもったのは、さまざまな感情において笑いがどのような位置づけにあるかというモデリングです。

 感情には、それを表わす側と受けとる側があり、ときには受けとる側が混同することもありますが、混同しやすい感情を隣り合わせに並べると以下のようになるそうです。『笑い』から最初に連想するのは、おそらく『楽しい』といった類の感情だと思いますが、以下のモデルでは、『愛・幸福・楽しさ』に含まれます。ただ、『笑い』には、『冷笑』なども含まれ、こちらは以下のモデルの『軽べつ』に含まれます。その対極にある怒りや苦しみの真っ只中にあれば、笑うことはできません。

20170408 感情の円環モデル.png

 上記と似たモデルに、感情と表情の立体モデルも紹介されていました。こちらは、笑いを分類(@からF)し、それを立体モデルにマッピングしています。この地球儀のように見えるモデルの中心部分は、感情がない状態にあたり、地表に向かっていくにつれ、感情が強くなります。

20170408 感情と表情の立体モデル.png

 普段数値化しやすいものを扱う仕事をしているせいか、感情や表情といったものも、このようにモデリングできると考えたことがなかったので、おもしろく読めました。
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2017年04月07日

「通い猫アルフィーの奇跡」

20170407「通い猫アルフィーの奇跡」.png

レイチェル・ウェルズ 著
中西 和美 訳
ハーパーコリンズ・ ジャパン 出版

 動物が語る小説としては、犬が主人公の『名犬チェットと探偵バーニーシリーズ』が好きですが、この作品の語り手であるアルフィーは、チェットとは違って、飼い主に死なれてしまったかわいそうな猫です。不遇な時期にあっても堅実かつ勤勉に生活を立て直そうとする前向きな姿勢が、とても健気です。しかも、エサを前にして我を忘れてしまうチェットとは違って、人間の心理を鋭く分析しつつ、計画的に自分の家族を助けようと奔走します。

 そんなしっかり者のアルフィーですが、捕まえてきたネズミを持ち帰るという人間にとっては甚だ迷惑な贈り物を繰り返したり、あまり仕事のできないビジネスパーソンのように『忙しい』を連呼したり、意外な面を見せたりもします。随所にユーモアが感じられ、ほのぼのとした気分に浸れるので、風邪をひいて横になっていたときの読み物として最適でした。

 少子化が進む日本では、猫と犬を合わせたペット人口は、子供の人口を軽く上回ると言われているだけに、読めば癒されるこんな作品が増えるのかもしれません。
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2017年04月06日

「心にとどく英語」

20170406「心にとどく英語」.PNG

マーク・ピーターセン 著
岩波書店 出版

 タイトルにある「心にとどく」とは、『ニュアンスを正確に』といった意味です。普段なんとなく英語を使っていますが、『なんとなく』使っていただけに、間違って使っていた用語が次々と見つけられて、読んだ価値がありました。

【from now on (for a change)】
『これから』というタイミングを強調したいときに、from now on を使っていましたが、『これまでと違って』というのが正しい『強調』点だそうです。

I'll pay the NHK 'reception fee' from now on.

 上記の例は、単に「これからNHK放送受信料を払う」という意味ではなく、「今までずっとなんとか払わずにすんでいたが、バレてしまったので、これからはちゃんと払うしかない」というニュアンスだそうです。わたしが『これまでと違って』を強調したいときに使っていた for a change は、また『これまでの状態』に戻ることを想定した『たまには』の意味になるようです。

Can we talk about something other than Hollywood for a change? We're educated people.

 上記の例は、「たまにはハリウッド以外の話ができないかな。ぼくたちは知識人だろ?」と訳されています。

【(目的語の正当性を疑う) challenge】
U.S. May Seek to Challenge East German Medals

「米、東独のメダル破棄を要請する」と訳されている上記の新聞の見出しのように、challenge を動詞として使うのは、わたしには思いつかない例ですが、この challenge の語源は「誹謗」であり、正当性等を疑って対決を申し入れるのが、基本となる意味だそうです。そこまで強い意味とは知りませんでした。

I challenged him to run in a marathon.

もうひとつの例は、人が主語になっていますが、「じゃあ、マラソンができるなら、やってみろ」という訳になっています。語調がわたしの認識より強いです。これからは慎重にこの単語を使いたいと思いました。

【(迷惑の) on 】
Don't give up on me now.

 上記の例は、映画からの引用で、足を洗ったはずの主人公がまた犯罪に手を染めようとしているので、弁護士であり恋人である女性が「ちゃんとした人生を取り戻すために、私も一緒に頑張ってきたんじゃないの。あなたがそれをあきらめてヤクザに戻ってしまったら、困るのよ」という感じだそうです。前置詞は、奥が深く、いつまで経っても理解できた実感が持てません。

【(エラそうにならないための) you】
 小説の会話などで、明らかに自分自身のことを指しているのに you が使われていることが時々あります。初めて読んだときは「あれ、自分の話だよね?」と混乱しました。自分のことなのに、一般論の you を使う理由を著者は、自慢話にならないように使われるケースが多いと説明しています。

レポーター: How does it feel to win Wimbledon for the first time? (ウィンブルドンの初優勝は、どんなお気持ちですか?)

選手: Well, when you train hard every day for years with one goal in mind, and some days you are just ready to give up, and then suddenly you find yourself at the top like this, you feel like you must be dreaming. (そうですねぇ、一つの目標を目指して何年も毎日続けて厳しいトレーニングをやってきて、そして、もうやめようかと思う日さえあった上、突然こうして成功の絶頂に達したとなると、まるで夢のような感じですね。)

 日本語と比べて、主語を省くのが難しい英語の場合、こうして『私が、私が』とエラそうになるのを避けるのだと納得できました。
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2017年04月05日

「香妃の末裔」

20170405「香妃の末裔」.png

波平 由紀靖 著
あさんてさーな 出版

 以下が収められた短篇集です。

−香妃の末裔
−遺稿
−星笛鯛
−天鉄
−摩天楼
−狂気の画廊
−翠窯
−蟷螂の斧

 筋書きとしては、おもしろい作品が多いのですが、あまり楽しめませんでした。平板な説明ばかりで、こまかな描写が少ないというか、読んだことが自分のなかで自分なりのイメージになりませんでした。また意外な結末が用意された作品ほど、登場人物に魅力が感じられず、共感できません。

 たとえば「香妃の末裔」では、主人公の男性が偶然知り合った女性に惹かれていくのですが、最後に意外な事実が明らかになった途端、その女性が屁理屈では秀でていても、おとなのルールを理解しようとしない傍迷惑な人に見えてきます。

 また「遺稿」でも、最後に意外な事実が明らかになった時点で、物語の語り手である作家が白々しい嘘を重ねてきた人になってしまい、共感できなくなってしまいます。もし、作家の物語を生み出す苦しみや葛藤が描写されていれば、多少は違った印象を残すことができたかもしれないと思うと惜しい気がします。

 こんな調子で、どの作品もしっくりときませんでした。わたしには向かない作家なのだろうと思います。
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