2018年09月29日

「遅番記者」

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ジェイムズ・ジラード (James Preston Girard) 著
柴田 京子 訳
講談社 出版

 友人の本棚で見つけて貰いうけた古い本ですが、わたしにとっては当たりでした。連続殺人犯を追う捜査をメインに、犯人を追う側の家庭の崩壊と再生がサブストーリーになっている一般的な展開なのですが、少しひねりがきいています。

 まず、タイトルにある遅番記者は、夜間対応の遊軍のような記者です。窓際とはいわないまでも華々しい仕事をしていないその記者が連続殺人犯担当の捜査員に張りついて取材することになります。警察官と同じように事件を追うものの、事件を見る角度がやや異なり、それがこの作品の個性のひとつになっています。

 さらに、冒頭では連続殺人犯を追うことがメインストーリーのように見えていましたが、気がつくとサブストーリーと思っていた犯人を追う側の家庭の崩壊と再生がメインと入れ替わったように見える点も珍しいように思います。

 連続殺人犯の被害にあった女性たちの大部分は、事件に巻きこまれるようなタイプではないことから、普通の人が過ごす何気ない日常が一瞬にして奪われてしまう危険性が世の中に潜んでいるという事実が、事件を追う者に突きつけられます。それによって、日常は、いつ失われてもおかしくないものという感覚が遅番記者に伝わり、物語の展開に影響を与えると同時に物語に占める割合も大きくなっていきます。

 最後に、連続殺人犯の逮捕においても、意外な結末が用意されていて、犯人を追う側の意外な落着とともに、終わりまで目が離せない展開になっています。

 古典的な構成だと思って読み始めましたが、その枠におさまらない部分も楽しんで読めました。
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2018年09月28日

「天国通り殺人事件」

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シュテファン・スルペツキ (Stefan Slupetzky) 著
北川 和代 訳
東京創元社 出版

 オーストリアの作家による作品です。普段オーストリアの作品を読む機会が少ないので、期待して読んだのですが、2 つの点で物足りなさを感じました。

 ひとつは、人物描写が少ない点です。主人公ですら、価値観や信念のような内面も過去も描かれていないため、人間らしさに欠けて見えます。

 もうひとつは、中途半端な位置づけの作品だという点です。

 最初に殺人事件が起こり、主人公が犯人に取り違えられるような状況に陥ります。次に主人公は、自身が犯人ではないことを証明すべく真犯人を見つけだすために行動を起こします。ここまでの展開は、コージーミステリのお決まりパターンですが、コージーミステリの素人探偵のような微笑ましさは感じられません。肝心の主人公が元刑事という設定で、素人探偵役には無理があり、また彼の行き当たりばったりな行動が笑いを誘うユーモラスな展開ともいいがたいものがあります。

 では、ミステリとして謎解きを楽しめるかというと、それも難しいように思いました。素人の読者にもわかるような手がかりがないだけでなく、元刑事が探偵役になっているわりには推理も展開されません。

 このシリーズは、すでに 4 作品刊行されていて、本作は、ブルグドルファー・ミステリ大賞を受賞しているそうです。ユーモア (どちらかといえばブラックユーモア) が売りの作品かもしれませんが、日本語にした時点で失われたのかもしれませんし、オーストリアの文化やウィーン語に疎いわたしには伝わらないものだったのかもしれません。でも、わたしには合わない作品でした。
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2018年09月24日

「絵を読み解く 絵本入門」

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藤本 朝巳/生田 美秋 編著
ミネルヴァ書房 出版

 絵本を分類し、それぞれに対して考察している良書です。

 第T部では、物語絵本、昔話絵本、ファンタジー絵本、ポストモダンの絵本 (従来の形式にとらわれない常識破りな絵本) 、赤ちゃん絵本と分類しています。おもしろかったのは、赤ちゃん絵本です。0 〜 2 歳の赤ちゃんに読み聞かせるそうですが、2 歳はともかく、1 歳未満の子に絵本なんて……と驚きましたが、具体例とともに読み進めると、赤ちゃん絵本も重要なジャンルのひとつだと納得できます。

 第U部では、古典/海外、古典/日本、現代/海外、現代/日本の 4 つに分類し、それぞれ 10 点ほどの絵本が紹介されています。

 数多くの絵本が具体的に紹介されていて、盛沢山の内容です。時間が許すなら、絵本の実物を手にしながら、1 日 1 冊ずつ絵本の紹介を読むといったペースで、それぞれの個性を味わうといった読み方がおすすめです。随所に絵本の一部のページが転載されているとはいえ、実物を手にするとやはり多くの気づきが得られるからです。

 特別印象深かった本が 2 冊あって「もこ もこもこ」と「おんぶはこりごり」です。

「もこ もこもこ」は、前出の赤ちゃん絵本に該当しますが、オノマトペと抽象画が連動する仕掛けで、ストーリーはありません。子供向け本の基本展開である『行って帰る』ではありませんが、抽象画の形が最初と最後で同じになっていて、それが『行って帰る』を感じさせます。オノマトペには音象徴が見られるため、赤ちゃんに読むには良い本だと思います。

「おんぶはこりごり」は、家のなかのことをすべて母親に頼っている一家のはなしです。要は、家のなかのことは、みんなで分担しましょうということなのですが、それが幼児も読む絵本になっている点と遊び絵などを多用して重くなりやすいテーマを謎解きのように楽しめるようになっている点が、わたしにとって斬新でした。

 子供が読む本だからこそ、よりいっそう真摯に描かれている作品が多いことに驚かされました。
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2018年09月23日

「浪花少年探偵団」

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東野 圭吾 著
講談社 出版

 最初に驚いたのは、東野圭吾は、こんなタイプの本も書くのかということです。軽快でユーモラスなミステリ短篇集で、25 歳の独身教師しのぶセンセが教え子の小学生たちを引き連れ素人探偵として活躍します。

 次に驚いたのが、会話がほぼ大阪弁で進行する点です。著者プロフィール欄を読むと『大阪府生まれ』と書かれてありました。関西弁話者以外の方々にとっては、読みにくかったり、冗談に聞こえない会話があったりするのではないかと気になりましたが、関西出身者にとっては違和感のない会話で、しかもコメディタッチでサクサク読めます。

 ミステリとしてトリックがどうこういう以前に、漫才と似た感じで、しのぶセンセと周囲の人たちとの掛け合いを楽しむ作品かと思います。

 (関西弁話者が) ちょっとした時間潰しに読んでリフレッシュするのに最適だと思います。わたしは、しのぶセンセの優しいながらも歯に衣着せぬ物言いを読んだら、少しストレスが軽くなりました。
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2018年09月22日

「経済ってそういうことだったのか会議」

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佐藤 雅彦/竹中 平蔵 著
日本経済新聞社 出版

『経済』ということばを日常的に耳にしているわりに理解していなかったと知ることができました。

 たとえば通貨 (主権)。当たり前すぎて考えたこともありませんでしたが、日本は国内どこでも通貨は円です。つまり、沖縄も東京も同じ通貨を使い、金融政策も同一です。もし、沖縄の景気がとても悪く東京の景気がとても良かったとしても、それぞれ異なる金融政策をとることはできません。(景気の良い東京では引き締め、景気の悪い沖縄では緩めるといったことは不可能です。)

 そうなるとどうなるか。この本では、景気の悪いほうから景気の良いほうへ、人のほうが動くと説明されています。東京一極集中状態を見る限り、その説明は正しいように見えます。

 そう考えると同一通貨の範囲は、インパクトの大きい問題だということになります。たとえば香港が中国に返還されたとき、通貨は米ドルにペッグした香港ドルを維持しました。また、イギリスは、EU に加盟してもポンドを使い続けました。『通貨主権』について考えたこともなかっただけに当たり前だと思っていたことへ至った決断があったことに今更気づきました。

 さらにこの本では日本の通貨、円が国際化する (円で国外での取引が可能となる) ことによって、為替リスクを負わずに済むというメリットが生まれるいっぽうで、日本銀行のコントロールが及ばなくなるデメリットがあると説明しています。日本と関係のある国や地域で円のマーケットができると、そこでの需要と供給で自由に取引が行なわれて円の金利が決まり、日銀が国内の通貨量を増減させることによって金利を調整しようとしても、最終的には外からの影響を受けて円の金利が決まってしまい、通貨主権が結果的に放棄されてしまうわけです。

 仮想通貨が加わったこれからの時代、通貨はどうなっていくのでしょうか。経済をテーマにしたこの本のなかで、それが一番気になりました。
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