2019年01月08日

「ホビット―ゆきてかえりし物語」

20180108「ホビット」.png

J・R・R・トールキン (J.R.R. Tolkien) 著
ダグラス・A・アンダーソン (Douglas A. Anderson) 注
山本 史郎 訳
原書房 出版

 古典のすごさを見せつけられたように思います。

 この本の後半に収められている膨大な量の注を見ると、「ホビット」の舞台である『ミドルアース (Middle-earth)』やその登場人物などがいかに幅広く詳細に研究されているかがわかります。また、作家が納得できるかたちに向けて作品が何度も修正され版を重ねていったことも窺えます。続編の「指輪物語」との整合性がとられたり、両作品の舞台や登場人物を精緻に思い描こうと繰り返し読んだ読者が疑問に思ったりしたことが反映されたりしたのでしょう。

 この作品は、舞台も登場人物の個性もストーリー展開も魅力的なのですが、わたしが惹かれたのは、その意外性です。

 ひとつは、何に重きをおくかということです。まがまがしいドラゴンが登場するのですが、それを退治する場面はクライマックスではありません。また主人公がドラゴンを倒すわけでもありません。主人公はホビットという種族のビルボ・バギンズなのですが、冒険の旅において数々の活躍を果たすものの、いちばん人に印象を残すおこないは自己を犠牲にするある判断で、寓話らしさを感じない冒険物語に人の叡智と品性を感じさせます。

 もうひとつは、日常との融和です。タイトルに『ゆきてかえりし』とあるように、冒険に行くまでの平凡な生活と冒険から帰ってからの幸福な暮らしがうまく冒険の旅とつながっています。ビルボは、冒険の旅に出る際もハンカチを忘れてきてしまったことを気にかけるような性格で、戦闘的になることもなく、またユーモアを忘れることもなく、冒険に出たことを少しばかり後悔してしまう場面もあり、颯爽とした正義の味方とは違う持ち味を損なうことなく冒険を終えます。

 そんなビルボに親近感を感じたり、冒険前後の彼の暮らしに自分の日常を重ね合わせることができるようになっているように思います。

 おとなが夢中になるのも納得できました。
posted by 作楽 at 20:00| Comment(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする