2008年08月12日

「ポー・シャドウ」

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Matthew Pearl 著
鈴木 恵 訳
新潮社 出版

 ごく稀にしかミステリを読まないわたしでも、エドガー・アラン・ポーの名前を聞いたことはありました。でも、彼の死の間際の空白の時間が、アメリカ文学史最大の謎になっているとは、全然知りませんでした。著者のあとがきによると、こうです。
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 エドガー・アラン・ポーがボルティモアの病院で死んだのは一八四九年十月七日、<ライアンズ>のホテル兼居酒屋で衰弱しているところを発見されてから、四日後のことである。享年四十だった。ポーは九月二十六日か二十七日に汽船でヴァージニア州リッチモンドを発ち、途中でフィラデルフィアに立ち寄って、マーガリート・セント・リオン・ラウドなる詩人の詩集を編集したのち、ニューヨークの自宅に戻ることになっていた。義母マリア・クレムには、フィラデルフィアの自分にE・S・T・グレイという偽名を宛名にして手紙を送ってほしいと頼んでいる。だが、知られているかぎりでは、彼はフィラデルフィアに到着していないし、ニューヨークにも帰りついていない。かわりに、突然ボルティモアを訪れ、そこで最期を迎えている。彼が船で到着してから選挙当日に<ライアンズ>に現われるまでの五日間、はたしてどこにいたのかは、ほとんどまったくわかっていない。これはいまだに文学史上最大の謎のひとつである。
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 「ポー・シャドウ」は、史実として知られているポーの最期の数日と齟齬をきたさないように、その空白を埋めようとする試みです。

 空白を埋めるために奔走する主人公は、クウェンティン・ホブソン・クラーク。兄弟のように育ったピーターと法律事務所を経営する二十七歳の弁護士です。彼は、ポーの熱烈なファンで、面識はなくとも、書簡のやりとりがあり、その中ではポーが創刊する予定の<スタイラス>という雑誌の件で、手助けする約束まで交わしました。そして、偶然にも、クウェンティンは、ボルティモアでとりおこなわれた、参列者数人という寂しいポーの葬儀を見かけます。その後、新聞にはポーの記事が掲載されるようになります。ポーは、生前、禁酒会に参加していたことから、<ライアンズ>で酩酊した末、命を落としたように書く新聞も出てきます。しかし、クウェンティンには信じられず、ポーの名誉を回復すべく乗り出します。

 クウェンティンは何もかも投げ出し、ポーのために、ポーの最期の謎を解こうとするのですが、それが、わたしには理解できませんでした。時代が一世紀以上も昔であり、その当時の富裕層の暮らしは、わたしの想像の遠い彼方だということは事実です。クウェンティンが、謎を解けるような人物を探すために、はるばるパリまで行くようなことも、金持ちにとっては何でもないことだったのかもしれません。しかも、酒に溺れて死んだと書かれることが、それほど不名誉なことなのでしょうか。自分自身の暮らしを顧みず、記事を訂正するだけの根拠を探さないといけないことなのでしょうか。わたしには理解できず、消化不良状態でした。それでも、先へ先へと読み進めたのは、見事な解決を心待ちにしていたからです。しかし、その期待も裏切られました。一世紀以上の昔のことについて、すべての辻褄があう新しい解釈を今になって見つけるだけでも大変でしょう。だから、胸がすくような結末というのは期待し過ぎだったのかもしれません。

 ひとつのミステリ作品として読んだとき、誰にとっても満足のいく結末や読後感ではないと思います。そして、クウェンティンがポーの最期を知ろうと関わった人々との関係で、危険に巻き込まれていく冒険話として読んだときも、その不自然な展開に読む気力が萎えていくように思います。

 クウェンティンのように、ポーに傾倒している読者のためのミステリと呼んでいいのではないでしょうか。
posted by 作楽 at 00:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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