2009年05月28日

「きいろいゾウ」

20090528[KiiroiZou].jpg

西 加奈子 著
小学館 出版

 「しずく」と同じ著者なのですが、読んだ印象が違い過ぎて気づかないところでした。「しずく」が現実的な視点で女性の心に切り込んでいるとすれば、「きいろいゾウ」は非現実的な視点で人と人の繋がりに切り込んでいるといった感じでしょうか。なにしろ、登場する夫婦が無辜歩(むこ あゆむ)と妻利愛子(つまり あいこ)で、お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合うのですから、現実離れしているとしかいいようがありません。しかも、ツマのほうは、動植物が話すことばを聞けるうえ、幽霊まで見えるのですから、ファンタジーかと一瞬疑うくらいです。

 そんなムコさんとツマは、東京を離れ田舎に暮らしています。出会う人たちも限られ、起きる事件も限られ、そこにあるのは変わり映えのしない毎日。そんな毎日がツマの語りとムコさんの日記で交互に綴られます。そこには、季節の移り変わりがあり、隣家の駒井家に登校拒否になってしまった孫の大地君が住むといったちいさな事件があり、毎日花が供えられている不思議な墓があります。

 そして、内面には、月が満ちると不安になるツマの心があり、それを気遣うムコさんの優しさがあります。

 そんな穏やかな雰囲気を少し幻想的にしているが、各章に挟み込まれている「きいろいゾウ」の童話です。病弱で外を出歩けない少女と空を飛ぶことができるきいろいゾウの話です。病弱な少女とツマが重なり、温かで包み込まれるような安心感がただよい、田舎での暮らしの空気感に合っています。

 しかし、そんな日常が揺らぐできごとが起こり、ムコさんは突然東京に行ってしまいます。その理由を口に出しては言えず、長い手紙を書くムコさん。ムコさんの過去を察しながらも、面と向って訊けないツマ。そのふたりが離れた場所で、それぞれが確かめる真実。

 それらの練りに練られた展開も好きですが、個性的な語りも好きです。うまい作家さんなんだな、と思います。
posted by 作楽 at 00:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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