2009年10月16日

「劒岳―点の記」

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新田 次郎 著
文芸春秋 出版

 実話をもとにした小説です。明治39年、前人未踏といわれてきた劒岳の測量を行なうことになりました。その頃、日本の測量はほぼ終わり、地図上の空白は劒岳周辺のみとなっていたのです。それだけ、劒岳周辺は三角点を設定するのが難しい場所だったわけです。(タイトルの点の記というのは、三角点設定の記録を指すそうです。)

 測量決定の直接的なきっかけとなったのは、山岳会の発足でした。それまでは、登山といえば信仰を意味し劒岳は地獄の針の山と呼ばれ登ってはならないとされていました。しかし、その劒岳にいわば楽しみのために初登頂しようという山岳会があらわれたのです。当時、測量は軍の仕事でした。面子を大切にする軍のことですから、長年登山の経験を積み測量の仕事をしてきた軍が趣味の山岳会に先を越されるのを良しとはしなかったわけです。そして、主人公の柴崎芳太郎にその任務が与えられることになりました。

 舞台は山ではありますが、この小説は任務の遂行を描く職業小説だと思います。仕事に必要とされる緻密さ、チームで働く難しさ、立場によって違ってくる価値観などが書かれています。

 柴崎芳太郎を中心に測夫や案内人で構成される測量チームの価値観は、現代においてわたしが見る職業人の価値観とはあまりに違って見えました。約100年前、日本にはこういう誠実さ、勤勉さ、思いやりを備えた人々が普通に組織の末端で働いていたのかと想像すると、感慨深いものがあります。かつて日本にあった終身雇用などは、この時代の価値観があればこそ生まれたものなのかもしれない、と思いました。特に、長次郎という案内人が強く印象に残りました。

 地味な本でしたが、読んでよかったと思います。
posted by 作楽 at 00:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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