2009年10月21日

「無伴奏」

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小池 真理子 著
集英社 出版

 結末が近づくにつれ、響子が勢津子に話してしまおうなどと思うだろうか、という疑問が膨れてきました。そして、読み終わったとき、やっぱり響子なら話さなかったのではないか、と思いました。

 響子は語り手です。40歳を目前に高校時代を過ごした仙台に行き、勢津子という女性と会います。20年前のなにかを話すために。そこから回想のかたちで響子の高校3年生から浪人時代のことが語られます。響子にとってその後の人生を変えるに至った、恋にまつわるショッキングな思い出の舞台になっているのは、1960年代後半の仙台。大学闘争が盛んで、高校まで飛び火していた時代に仙台にあったクラッシック喫茶が「無伴奏」です。

 響子が徐々に明かしていく勢津子に話すなにかに引っ張られて読み進めてしまいました。20年経っておとなの女性の視点で語られる青春は落ち着きと瑞々しさの両方が感じられ、響子に寄り添って読めました。10代の終わりと30代の終わりでは、ものごとの受け止め方も価値のおき方もまったく違うのですが、回想に30代の響子をあまり持ち込まず、10代の響子が細やかに描かれているのが、気に入りました。

 おそらく、おとなの落ち着きをもって語らせるために30代の響子に回想させる必要があったのかもしれませんが、勢津子に話すことはなかったように思います。実際、響子は話すきっかけを失い、そのまま響子と別れます。最初から、響子は心のどこかで話さないと決めていたのではないかとさえ思えてきました。

 単なる読み手のわたしがそう決めつけてしまうほど、響子という女性が伝わってくる作品でした。
posted by 作楽 at 07:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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