2009年12月17日

「ヘヴン」

20091217[Heaven].jpg

川上 未映子 著
講談社 出版

乳と卵」と同じ作家の作品。「乳と卵」のときに比べてずっと読みやすい作品でした。ただ、若い世代の方々に読まれたほうがいいという印象を受けました。

 学校で苛めを受けている男女の中学生が密かに手紙を交わし相手との距離を縮めお互いを知ろうとするプロセスから物語は始まります。

 最初ふたりは何気ないことを手紙にして交換しあいます。そのうちふたりで会って話すうち、女子のほうは自分の胸のうちを語り出します。苛めに耐えているのは単なる弱さではなく、その状況を受け入れている結果だと。そして、それは正しいことなのだと。彼女はすべてのことに意味があると考えたいのです。苛められていることにも意味があり、そして人生の意味をすべて理解できるときを待っているのです。

 そのあたりから、わたしのなかの違和感が大きくなってしまいました。そのうち、男子のほうには、苛める側のひとりである百瀬という男子と話す機会が訪れました。会話というより、すれ違うためだけの言葉を双方が吐いているといった感じのやりとりでした。苛めらる側は、苛めは悪いこと卑怯なことといった概念を前提にしています。しかし、苛める側は、その場の雰囲気や欲求に従って苛めているだけで、善悪とは何の関係もないといいます。

 それぞれ自分側だけの視点で言葉を吐いているのを読むと、こんな風にふたりに語らせることに意味があるのだろうか、と疑問に思いました。たぶん、こういう風に語られても、わたしに触発されるものがないからでしょう。

 人というのは、年齢を重ねるにつれ自分の価値観が確立してきます。語られている内容について、わたしのなかでは答えが出ていて、それは登場人物に語られたくらいでは、どこにも引っかからなかったのだと思います。

 語るということは伝えるためにもっとも直截的な手段のように見えることがありますが、実は違うのだとあらためて思いました。
posted by 作楽 at 08:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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