2009年12月18日

「五重奏」

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アンヌ フィリップ 著
吉田 花子 訳
晶文社 出版

 人それぞれの愛のかたちがあると思います。だから、ある人が誰かを愛していると考えても、別の人からみれば愛でもなんでもないということもあるでしょう。同じ人にとっても、男女の愛と親子の愛は違うかもしれません。

 そんなそれぞれの愛が五人によって奏でられ、五重奏になった。そういう物語です。

 女性教師アニエスは亡くなった母が住んでいた、中庭を隔てた向かいの部屋に、ある家族が引っ越してくるのを目にします。夫のペーチャ、妻のイザ、変声期の息子ヴァンサン。アニエスは母の思い出と重ね合わせながら、向かいの家族をそっと見守ります。そして、あるとき、ペーチャに恋人ができたことを知ります。それは若い音楽家クレマンス。

 ペーチャ、イザ、クレマンス、ヴァンサン、イザは、それぞれ相手を思う気持ちをもって接しながら、それぞれの愛をまっとうします。しかし、それぞれの愛は誰かを叩きのめすためのものではありません。他者を静かに受け入れる強さと個性があります。だから、それらは音楽に喩えられるのではないでしょうか。

 この五重奏にアニエスが加わっていることに、わたしは最初違和感を感じました。でも、アニエスの眼差しが気持ちを見透かしてしまうのは、そこに愛があるからだと思うようになりました。夫に先立たれたアニエスは、終盤になって気付きます。以前のように夫との思い出に浸らなくなった自分に。それは、ほかの楽曲に加わるようになったからだという気がします。

 静かに沁みてくる楽曲でした。
posted by 作楽 at 07:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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