2010年03月24日

「風に舞いあがるビニールシート」

20100324[KazeniMaiagaruVinylSheet].jpg

森 絵都 著
文藝春秋 出版

 以下が収められている短編集です。

−器を探して
−犬の散歩
−守護神
−鐘の音
−ジェネレーションX
−風に舞い上がるビニールシート

 それぞれ違う立場の人物をとりあげているにも関わらず、どれにも共感できました。

 とりわけ共感できたのは「犬の散歩」。捨て犬や放浪犬をいったん自宅で預かり飼い主を探すボランティア活動をしている恵利子が主人公。2匹の犬を預かっているのですが、片方は腎臓疾患が見つかり専用フードを与えるように獣医から勧められています。そのえさ代が1日800円。安くはない金額です。恵利子は、外でのランチを1回我慢すれば犬のえさ何日分になる。エステを1回我慢すれば、犬のえさ何日分になる。と、すべて犬のえさに換算してしまうようになり、そのうち、夫の稼いだ給料でえさ代を賄うのが精神的に苦しくなり、犬の散歩に支障のない夜にアルバイトを始めます。

 恵利子は、すべてを犬のえさ何日分と計算することを価値観の安定と捕らえています。えさ何日分を犠牲するほど、これは自分にとって価値のあることなのだろうか、という問いかけは、自分の価値観をはかるものさしだと考えるのです。

 そもそも犬がそれだけ大事なのか、と正面切って訊かれれば、答えにくい問題ではないでしょうか? 世界には食べるものがなく飢えていく子供が溢れているのに、犬だけを助けることにどれだけの意味があるのか、と訊かれれば、誰もが答えにつまるでしょう。それでも、恵利子は自分の価値観を揺ぎ無いものにしていきます。誰もが、その人だけの価値観を軸に生きていく。わたしの価値観はわたしにとって揺ぎ無いものであってかまわない。読んでいてそう思えたことが印象に残りました。

 この作家の作品をはじめて読みましたが、また読みたいと思わせてくれる作品集でした。

posted by 作楽 at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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