2010年05月21日

「Hard Frost」

20100521[HardFrost].jpg

R.D. Wingfield 著
Bantam 出版

 「Night Frost」の続編。アラン警部補がほかの署に応援に行くことになったため、主人公のジャックは休暇中にも関わらず、殺人事件を担当させられてしまいます。(見事なくらい毎回不運に見舞われるのが、ジャックです。)

 このシリーズは4作読んだことになりますが、毎回アラン警部補の名前は頻繁に登場するものの、本人が捜査しているシーンなどはまったくありません。捜査に直接関係のないちょっとした会話どまりです。ここまで徹底して表に出てこないと、逆に興味が湧いてしまいます。ちなみに、アラン警部補はジャックとは違って上からの評価が高く、とてもきれい好きで、論理的な人物として描かれています。

 さて、本題のジャックですが、今回は内部でも外部でも今まで以上に手ごわい相手と向かい合うことになります。

 内部の手ごわい相手は、4年ほど前まで同じデントン署で働いていたジム・キャシディ。人手不足のため一時的に昇格され、警部補として古巣のデントン署に応援にきたのですが、ジャックとは最悪の雰囲気で接しています。実は4年前、キャシディの娘が車に轢き逃げされたとき、ジャックが事件を担当したのですが、犯人を捕まえられなかったのです。捜査に手抜きをしたとかたく信じているキャシディは、ことあるごとにジャックに当たり、娘の事件の話を持ち出します。しかし、この轢き逃げ事件には意外な事実が隠されていて、結末あたりで暴露されてしまいます。

 一方、外部のほうの手ごわい相手は、恐ろしく完璧に証拠を拭い去る精神力をもつ誘拐犯人です。証拠を見つけられるものなら見つけてみろといわんばかりの挑戦的な態度でいどんできます。しかし、ジャックの粘りと勘で、思わぬ展開になります。しかし、今回もジャックは越えてはならない一線を越えてしまい証拠を捏造してしまいます。ただ、それまでの長い持久戦でじりじりと追い詰めるさまを読むうちに、ジャックのしたことを肯定しそうになってしまうから、不思議です。

 この巻で特別考えさせられたのは、ジャックの優しさは相手にとっても本当の優しさなのか、ということです。たとえば、この巻では、強盗や恐喝の常習者も殺されます。加害者は、被害者から悪質な脅迫を受け、暴行を受けそうになり殺してしまったのですが、その脅迫内容を供述調書から抹消したいと代理の弁護人がジャックに頼みにきます。担当はキャシディなので、供述調書を書き直すなんてことは絶対許してもらえそうにありません。でも、ジャックはなんとかしてあげると弁護士に約束します。

 規則をまげて、その加害者の秘密が世間に公表されないようにしてあげるのは、ジャックの優しさだと思います。実際、事件に深く関わっていない人たちが知る必要もない秘密を守ってあげたことは、脅迫者に追い込まれて犯罪を犯してしまった加害者たちを救ったことは間違いなく、傷つく人がでてくるとも思えません。でも、キャシディの娘の轢き逃げ事件の真相を隠したジャックの優しさは、だれも救っていないかもしれないという疑問がわたしにはあるのです。

 このシリーズでは、人と人が接していくうえでの本質的な問題を考えさせられることが多々あり、それが私がこのシリーズに惹かれる理由のひとつになっています。
posted by 作楽 at 00:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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