2010年08月18日

「大番」

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獅子 文六 著
小学館 出版

 昭和初期、兜町の株屋に住み込んで働き始めた、貧しい農家出身の18歳の青年が株の世界で相場師として頭角をあらわしのしあがっていくサクセス・ストーリーです。

 戦争や恐慌など株の世界にも大きな波が押し寄せた時代のことなので、主人公の赤羽丑之助の人生も浮き沈みの激しいものになっています。食べるものさえない貧しさにあったかと思えば、家を買い温泉で豪遊する身分になり、気がつくと夜逃げしなければならないといった高波です。しかし、悲壮感に包まれ暗い気分になるわけではありません。持ち前の個性で荒波を越えていく主人公の姿は、明るくて先を読みたくなります。

 また、その主人公を支える周囲の人も、主人公を踏み台にのし上ろうとする人も、生き生きと描かれ、共感できる部分も多く、古きよき時代の描写とともに楽しめます。ただ、株はその高下が話題の中心になってしまうので、強気と弱気の繰り返しに感じられる部分が後半にあって少し退屈気味ですが、そこを乗り切れば、最後はまた楽しめる展開だと思います。

 わたしが一番気に入っているのは、マドンナ役である森可奈子に主人公がラブレターを渡す場面と、もらった靴下を後生大事にする場面です。どちらも主人公の個性が前面に出て笑える場面でした。

 ちなみに獅子 文六の文六は文豪(五)を超えるという意味が込められているそうです。暗いはずの戦争時期を挟んでいる作品にも、そういう作家のユーモアが滲み出ている気がします。
posted by 作楽 at 00:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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