2010年09月27日

「暗殺のハムレット」

20100927「暗殺のハムレット」.jpg

ジョー・ウォルトン (Jo Walton) 著
茂木 健 訳
東京創元社 出版

英雄たちの朝」の続編ですが、趣向は前作と少し変わっています。前作は事件に巻き込まれた女性(つまり犯人一味ではない人物)と警察捜査担当者が交互に語り手をつとめていました。女性と捜査官カーマイケルが交互に語る点は今作も同じなのですが、今回は女性側が捕まったことが冒頭に書かれてあり、フーダニットになっていません。

 犯人が誰だかわかっているので、前作ほど楽しく読めないのではないかとふと思いましたが、良い意味で予想が裏切られました。

 理由のひとつは人物描写の巧みさです。語り手のひとりカーマイケルの場合、前作で権力に屈してしまったのですが、そのことに対する葛藤や抵抗を読んでいくうちに人の好さが伝わってきます。また、もうひとりの語り手ヴァイオラ・ラークは貴族の生まれにありながら、自分の夢であった女優になり、親とは絶縁状態にあります。しかし、その家族を疎ましく思う反面で気にもかけてもいて、家族という特別な関係に対する複雑な気持ちが伝わってきて共感できます。また彼女の男性を見る目もリアリティがある描写でした。

 もうひとつは歴史改変が効果的に働いている点です。1941年6月にイギリスとドイツがいきなり講和したという設定で、1949年が事件の舞台になっているのですが、ドイツの威力を目の前にしながら、暗黒の世界へと突き進んでいるに違いないハラハラ感が物語の展開とうまく絡み合って面白みが増しています。

 最後はおまけのような楽しみです。タイトルにあるハムレットはヴァイオラ・ラークが役者としてハムレット役を演じることからつけられています。普段は劇などにあまり興味はないのですが、そのハムレットの解釈や演出は楽しめました。

 次の作品でシリーズは完結するそうです。
posted by 作楽 at 00:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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