2011年10月20日

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」

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ジョナサン・サフラン・フォア (Jonathan Safran Foer) 著
近藤 隆文 訳
NHK出版 出版

 他の本では見られない試みが見られる実験小説です。物語の語り手が見た落書きや写真などが挟み込まれていたり、語り手の交替にあわせて文章の字間や行間のとり方が変わったり、ときには文字に文字が重ねられて判読不能になったりしています。

 そういう試みは興味深いと思いましたが、そう価値のあることだとは受け止めていませんでした。巻末にたどり着くまでは。

 巻末にあった一連の写真は、この小説を通して描かれていることを体現していて、それまで読んできたことと絡み合いながら、わたしの頭のなかに入ってくるような感覚がありました。

 9.11テロで父親を失った少年と、第二次世界大戦時のドレスデン爆撃で大切な人を失った老夫婦が、それぞれの喪失の軌跡を語ります。喪失をどう乗り越えるかに正解はありませんし、「乗り越える」という表現が適切なのかもわかりません。しかし、9.11にしろ、ドレスデン無差別爆撃にしろ、その理不尽さと唐突さが、喪失を受け入れがたくしていることだけは察せられます。あのとき交わした言葉が最後になると知っていたら、時間を巻き戻すことができたら、そういう思いが、もしかしたら明日の自分に湧き起ってくる可能性は誰にだってあります。

 この小説は、そういう思いを(さまざまな手法を交えて)伝えることに注力し、結着をつけようとはしていないところが、好感がもてました。日々忙しくしていると、記憶が薄れていったり、他人事になってしまったりするできごとをもう一度引き寄せることができる作品だと思います。
posted by 作楽 at 00:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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