2011年11月15日

「雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行」

20111115「雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行」.jpg

村上 春樹 著
新潮社 出版

 旅行記なのですが、異色です。読む側からいうと、旅行記を読んでいて「わたしもその地を訪れてみたい」という気持ちがこれほどまでに湧いてこない作品は、珍しいと思います。湧いてきたのは、世の中いろんな土地があっていろんな人がいていろんな価値観があるんだなという、何の変哲もないけれど染みいる感慨でした。それは、積極的に肯定するでもなく否定するでもなく著者が書いた文のせいだと思います。

 ギリシャのほうは、ギリシャ正教の修道院ばかりが集まっているアトス半島という聖なる土地(男性と雄しか足を踏み入れることしかできません)を巡るというものです。どちらかというと経済的に困窮する修道院が多く、バチカンやイタリアに見られるような華やかさはありません。悪天候のなか険しい道をひたすら歩いて倹しい修道院を訪ね歩き粗食に耐えながら別世界(ギリシャ正教の世界)を垣間見たという現実は、もしかしたら、旅の企画段階では、エーゲ海の碧さを背に歩き修道院の質素な佇まいを堪能する予定だったのかもしれません。しかし、女であるという自らの現実を考えると、一生行くこともない土地を紹介してくれてありがとうという気持ちで読めました。

 トルコのほうは、3週間かけてトルコの端をぐるりと一周しています。ぐるりと一周しているせいか「それは本当にトルコですか?」と質したくなるくらい、イスタンブールの話しか聞いたことがないわたしには想像もできなかった風景や雰囲気が描かれています。さらに、(そのときはご存知なかったようですが)命の危険がある場所にまで足をのばされています。イスタンブールの話しか聞いたことがないわたしにとっては、トルコのイメージが(一度は訪れたい国から行きたくない国へと)がらりと変わりました。

 さんざん否定的に書いておいて矛盾しているようですが、(ギリシャやトルコではなく)どこか旅に出るのはいいかもしれないな、という気持ちはおきました。それは、その土地の空気を吸いこんでみなければ感じられない何かがあるということを、この本が思いださせてくれたからです。
posted by 作楽 at 07:49| Comment(0) | TrackBack(1) | 和書(エッセイ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

『雨天炎天 ―ギリシャ・トルコ辺境紀行―』 村上春樹
Excerpt: 「村上春樹」の紀行『雨天炎天 ―ギリシャ・トルコ辺境紀行―』を読みました。 [雨天炎天 ―ギリシャ・トルコ辺境紀行―] 「坂本達」の自転車紀行エッセイ『やった。―4年3ヶ月の有給休暇で「自転車世界一..
Weblog: じゅうのblog
Tracked: 2014-03-18 00:00