2006年10月31日

「とるにたらないものもの」

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江國 香織 著
集英社 出版

 人に何かを説明するというのは、難しい。特に、自分の思いのような目に見えないものを伝えることは、私にとってとてもハードルが高いことだと思います。

 その理由のひとつは語彙の少なさではないかと思います。特に形容詞。こんな言葉があったのね、と自分の無知さに驚くことも頻繁にあれば、こんな言葉とこんな言葉が結びつくなんてことはありなのか、と人のセンスに驚くこともあります。

 その後者の驚きにぶつかったのが、日常誰もが目にするようなものに対する思いが書かれた「とるにたらないものもの」。著者の独特の視点や思い出を交えて、日常にありふれているけど、かけがえのないものをひとつひとつ取り上げています。

 そのひとつに挙げられている「小さな鞄」。「世の中には、小さな甘やかな鞄の似合う女と似合わない女がいる、と、思っていた」と彼女は書いています。「小さな」鞄というのはよくわかるし、同じ鞄を指して、小さいという人と普通という人がいるかもしれないけれど、その概念としての小さいを取り違える人はいないと思います。でも、「甘やかな」鞄って、どんな鞄かと思ってしまうような形容詞です。実は、この文章の前に、「甘やかな」のニュアンスが伝わってくる説明がきちんとあります。

 著者は「小さな鞄を持つのは男性と一緒のときだけど決めていた」そうです。「でも、それは特別な場合、甘やかな依存外出の場合だ。私にとって依存は恐怖だったので、要るものはみんな持ってます、ええ勿論自分で持てます、大丈夫、おかまいなく、というのが普段のスタンスだった」とあります。

 そうくると、そうそうそうそう、と、くどいくらいに頷いてしまいます。私も彼女とほぼ同じ。傘だって地図だって無事行って帰ってくるには必要、ひとりで時間を潰すには本だって必要、となれば、やっぱり小さな鞄は甘やかな外出に使う甘やかな鞄ということに納得してしまうのです。

 こういうちょっと変わった視点を、どこからか引っ張ってきたままの表現でなく、さりげなく自分の言葉で表すことができる人が羨ましいです。
posted by 作楽 at 00:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(エッセイ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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