2006年12月20日

「廃用身」

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久坂部 羊 著
幻冬舎 出版

 「99999(ナインズ)」のときに触れたように、私はあとがきや解説を先に読むことはしません。

 いつものように表紙を開いて、1ページ目からこの「廃用身」を読み始めました。すると、医師が老人医療の現場(医師や看護師が常駐する施設で日中に老人を預かり、診察やリハビリなどを施すデイケア)での事実をもとに、Aケアと呼ばれる新しい治療を発表するというノンフィクションが始まります。

 ノンフィクションという形をとった小説なのですが、「これは、フィクションです」という但し書きはありません。しかも、小説の最後には奥付まであり、著者紹介なども掲載されています。また、登場する人物・企業・本や雑誌も実在するものを簡単に推測できる名前が使われています。そういう、フィクションなのかノンフィクションなのか、読んでいる途中でわからなくなるようなスタイルが面白いと思った点のひとつです。

 それを上回る面白さが、内容がリアルであり、衝撃的だという点です。ただ、面白いという形容が妥当なのか、自分の中でも迷いがあるくらい人を揺さぶるものがあります。

 タイトルにもなっている廃用身というのは、完全に麻痺し、リハビリ等で元に戻る可能性がなく、痛みや意思に反する動き伴う身体を指します。その廃用身を切断し、介護の負担を軽くし、本人の生活の満足度を上げようというのが、Aケアです。

 そのAケアに絡めて、身近にありながら、目をそむけてきた、あるいは目をそむけたい問題が浮き彫りになり、一気にフィクションがノンフィクションかと思えるくらいに身近な事件のような現実感が襲ってきます。

 日本が超高齢化社会へと突き進んでいるにも関わらず、常に先送りされる老人医療や老人介護の問題。介護疲れによる老人虐待や老人遺棄の問題。介護保険の不備および破綻の問題。長期的に取り組むべき深い問題を避け、すぐに簡単に人の興味を引くことができる部分だけをつなぎ合わせてジャーナリズムだと言い張る多くのメディア。医療の場で中心になるべき患者を置き去りに、金勘定優先に動く一部の医療機関。

 それらすべてに対する警鐘となる作品と受け取れなくもありませんが、医師が書いているだけに恐怖心がさらに高まる強烈な個性をもつ作品です。
posted by 作楽 at 00:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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