2007年01月23日

「花まんま」

20070123[HanaManma].jpg

朱川 湊人 著
文藝春秋 出版

 小学校に上がった頃だったと記憶しているのですが、自転車で行ける距離にあったキャベツ畑で青虫を1匹捕まえてきたことがあります。その青虫を飼いたいとは言えない状況にあったにも関わらず、どうしてもあきらめられない私は、隠れて飼うことにしました。空気穴を開けた空き箱に青虫とサラダ菜を入れて、こっそり隠しました。ときどき、サラダ菜を入れて面倒を見ているうちに、青虫は、サナギになって箱の蓋の裏にはりついていました。何のサナギかまったくわからないのに、なぜかアゲハチョウだと信じていた私は、今度こそ、アゲハチョウを見られるかも、と、そうっと蓋を開けることを数度繰り返した後、あるとき、サナギが空になっていることに気がつきました。それなのに、アゲハチョウは居ません。空き箱には、あの大きなアゲハチョウが出て行けるような隙間はないのに。まるで、キツネにつままれたようでした。大人に見つかって、捨てられてしまったのかと、大人の顔色を伺ったりしてみました。

 そのときの感覚を思い出したのは、この「花まんま」を読んだときです。6編の短編小説から成っているのですが、すべて舞台は大阪で、子供の視点から書かれています。たぶん、時代は1960年代から1970年代だと思われます。ちょうど、私が育った地域と年代に重なります。

 そのため余計に、リアルな感覚に襲われるのかもしれませんが、この不思議な感覚は、やはり、朱川氏の筆力でしょう。懐かしい昔の匂い、大人とは少し違う子供の頃の視点、大阪弁から漏れ出てくる人と人との距離感。この本を読んでいる間、異なる空間をさまよえます。しかも、ほんわかと暖かい空間。

 超常現象的なことが語られているにも関わらず、スポットライトが当たっているのは常に人であり、人の心の動きであることが、暖かさの源だと思います。

 タイトルになっている「花まんま」は特に、不思議な超常現象が前提になっているにも関わらず、人の人に対する切ない思いが、しみこむように伝わってきます。

 昔の大阪の街へ、よぅこそ。
posted by 作楽 at 00:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック