2013年03月12日

「横書き登場―日本語表記の近代」

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屋名池 誠 著
岩波書店 出版

 文字を横書きする際、右から左に書いていた時代があったと認識していました。現代において左から右に横書きするのと同じように、その当時は、文字を書く人は誰もが整然と右から左に書いていたようなイメージで思い描いていました。しかし、実際は、相当混沌とした状態だったようです。

 幕末に縦書きと併用しつつも横書きが用いられるようになってからずっと、さまざまな試みが生まれ、賛成派と反対派で意見が交わされ、左から書く横書きにつられて縦書きも左から右に行が移っていく看板がいっとき現れたこともあったそうです。新書なので、そんなに写真などがあるわけではないのですが、膨大な資料のなかから厳選されたであろう実例はそれぞれ小さく不鮮明であっても、こんなことよく考えついたものだと驚くほどの洒落っ気のあるものや、堅苦しいイメージを覆すようなお茶目な新聞広告もあって、他国の言葉は左から右に書かれるということを知ってそれを取り入れようとした人々の貪欲な精神が伝わってきました。

 その混沌とした時代は、戦争に負けるという出来事以降、たった3年で一挙に片がつき、現在の左から右へと書く横書きが定着したようです。右から左に書くのが日本古来の伝統であるから、他国に追随して左から右に書くのは良くないという類の批判が、日本の後れが敗戦の元凶であったという考えに駆逐されたということなのでしょう。(軍事面での後れだけでなく、文化も伝統もまとめて否定する流れになったのは、それだけ敗戦に打ちのめされたということなのでしょう。)ただ、英数字などを文章に取りこむにあたって、左から右に書くという合理性もあったはずです。

 著者の体系だった分析と推測は、自分が日頃使っている言語の歴史を知るうえで、一読の価値があります。そして最後にこの横書きが登場してからの流れ、およそ200年ほどのあいだに起こった変化を簡潔にまとめられた図を見ると、この過渡期の真っただ中でリアルにその変化を見てみたかったなという気が起こりました。
posted by 作楽 at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本語/文章) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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