2013年04月02日

「ローマ字国字論」

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田丸 卓郎 著
岩波書店 出版

 1914(大正3)年に初版が出版され、1930(昭和5)年に改訂が加えられ第3版となった本です。奥付によると、この本は1980年の第7刷となっています。1930年にどの程度手が加えられたのか不明ですが、およそ100年前の本といっていいかもしれません。

 本に書かれている内容とは関係ありませんが、日本も文字を随分と簡略化(画数を減ら)してきたということに気づかされます。古典文学も新字体に変えられたものを読んできたせいか、現代のどの字に当たるのか確信がもてずに読み進めた字がいくつかありました。

 肝心のこの本の内容ですが、タイトルにあるとおり、ローマ字で日本語を全面的に表記しようという働きかけです。支那語から借用した漢字を使っているため、音読みやら訓読みやら読み方が複雑になっていること、漢字を覚えたり使ったりする手間がローマ字に比べ負担になることなどを主な理由に、ローマ字を推しています。

 "し"を"shi"、"ち"を"chi"と表記するヘボン式ローマ字を批判し、"し"を"si"、"ち"を"ti"と表記する日本式の合理性を説いたり、大文字と小文字の使い分け方法を提案したり、スペースを入れる箇所の規則を考案したり、実現に向けて具体的に検討されていたことが窺われます。

 しかし、1世紀という時間を経たせいか、説得力というほどのものは感じられませんでした。ひとつは、主観による断定が多い点です。たとえば「日用の文字として漢字を止めて音文字を使ふがよいといふことは、もはや疑ふべき餘地のないきまつた問題である」と断言しています。これは、いろいろな方面の研究の結果とあるのですが、その研究内容自体は開示されていません。たとえば、あることが他方に比して容易であると主張するにしても、何かしらの実験結果を踏まえた意見であれば、説得力が感じられます。そういう客観性が求められない時代だったのかもしれませんが、現代の価値観をもって読むと違和感を感じました。

 しかしこの本を読んで、いままで疑問に思っていたことがひとつ解決しました。それは同音異義語のことです。「漢字と日本人」であげられていた例を挙げます。子供が関係する事柄で「それはカテイの問題です」と言われ、家庭を思い浮かべた聞き手に対し、話し手は假定のつもりだったというものです。会話ではこういう問題が起こっても、漢字を使う文書ではその心配がありません。しかし、ローマ字やカナで表記することになれば、会話と同じ問題が起こりますが、それに対し漢字廃止論者は、どう主張していたのか興味がありました。この本によると、ローマ字で書くようになれば、"家庭"や"假定"のような不便な言葉は、排除されていくことを期待していたようです。そういう日本語の発展を(それを発展と捉えるかどうかは別として)促すためにもローマ字表記にすべきという理論でした。

 それは、漢字を取り入れた時期まで戻ろうという主張に読めました。漢字を取り入れたあと、中国に逆輸入されるほど作ってきた言葉の多くを捨て去れと言っているようにも聞こえました。

 中国の周辺には、漢字を捨て去る決断をした国がありますが、そのなかに日本が入らなかった理由が、少しわかった気がします。
posted by 作楽 at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本語/文章) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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