2014年06月15日

「天を映す早瀬」

20140615「天を映す早瀬」.jpg

S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
長良 和美 訳
東京創元社 出版

 当シリーズ第7作となる今作で、リディア・チンとビル・スミスは、活躍の場をはじめて海外に移します。リディアが話す広東語が通じる香港にガオおじいさんの依頼により、品物を届ける仕事です。ガオおじいさんの依頼とあれば断ることのできないリディアはビルを説得して一緒に香港に向かいます。

 思慮深いガオおじいさんが品物を届けるだけの簡単な仕事にビルの同行を条件とするのは解せませんが、最後までガオおじいさんの意図は明かされません。

 そしてガオおじいさんが届けるよう依頼したのは、彼の旧友であるウェイ・ヤオシーという中国系移民の遺品です。ウェイ・ヤオシーは、中国から香港に渡り、そこで弟と一緒に貿易会社を興してアメリカに進出しました。その結果彼は、ニューヨークと香港を行ったり来たりすることになったのです。ふたつの土地での彼の暮らしは、このシリーズのリディアが語り手となる作品で繰り返し登場する、移民が感じる疎外感のような感情の延長線上にあります。自分が属さないと感じる土地での暮らしのなかで、自分のルーツである中国の文化や価値観とどう向き合うべきかをウェイ・ヤオシーは模索していたのではないかと察せられる場面もあります。

 文化の違いや価値観の違いなどを考えるいい機会になりました。そしていつものように、このシリーズが中国系移民によって書かれていないことをどう考えるべきかという疑問に行きつきました。
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