2007年05月14日

「神様のボート」

20070514[KamisamanoBoat].jpg

江國 香織 著
新潮社 出版

 人は誰でも気持ちが揺れるもの。待ちたい、期待したいと思っていても、現実はそんなに甘くないと、理性と呼ばれるもうひとりの自分が、自分が待っているものを否定してしまうもの。でも、あとになって、待っていれば幸せがやってきたかも、と何かの拍子にふいに思い、切なくなってしまうもの。

 そんな、行動に移せなかった期待する気持ちを架空の世界で充たしてくれるのが、「神様のボート」。

 シングルマザーの葉子と娘草子の視点で交互に語られる構成です。

 葉子は、去っていったあの人が、必ず見つけ出すから、と残した言葉を信じ続け、あの人が存在さえ知らないあの人の娘草子をたった一人で育てます。しかも、神様のボートに乗りながら。神様のボートは、どこにも係留され続けることもありません。ただ、彷徨うのです。

 点々と引越しをしながら、あの人が探し出してくれる瞬間を待つ葉子。その瞬間、きっと「やっぱり」と思うはずだと確信している葉子。

 そして、そんな葉子を傷つけたくないと思いながらも、神様のボートから現実の世界に行くべきだと、成長しながら傾いていく草子。

 葉子と草子は、親娘であり、別の人格でありながら、ひとりの女性の中のふたつの側面を象徴しているのではないかとさえ、思えてきます。

 あとがきで、著者はこう書いています。「小さな、しずかな物語ですが、これは狂気の物語です」

 ひとりの女性の中のひとつの側面だけでできあがった狂った人格。でも、とても妖しく魅力的なのです。
posted by 作楽 at 00:32| Comment(0) | TrackBack(1) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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「神様のボート」江國香織
Excerpt: 葉子と草子、母と娘の物語。 葉子と「あの人」が骨ごと溶けるような恋をして あまりにも純粋で、いたって正常な草子が生まれた。 いたって正常と書いたのは、江國香織があとがきで 「これは狂気の物語です。..
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