2017年03月07日

「失踪者」

20170307「失踪人」.png

シャルロッテ・リンク 著
浅井 晶子 訳
東京創元社 出版

『疑心暗鬼を生ず』ということばがありますが、そういった心境に似た思いで登場人物の誰も彼も疑ってしまうくらい、犯人が誰だかわかりませんでした。いかにも犯人といった特徴の人は、下巻に入ってから疑いの目を向けられなくなってしまい、犯人ではないという印象をもつ登場人物に目を向けざるを得なくなったからです。ミステリ作家の思惑どおり「はやく結末が知りたい!」と先を急ぐ始末です。

 それだけでもじゅうぶんに作品として成功しているのですが、この作品では、謎を解く立場にあるロザンナやその周辺人物の心理描写が巧みで、それぞれの望み、焦り、疑い、怒りなどの感情に共感してしまい、犯人探しがさらに難しくなります。

 そして最後に「そういう可能性があったのか!」と唸ってしまう結末が待っています。最後の最後に本音が出てくるあたりは、辛い事情や感情の機微がそれまでの描写を活かしたかたちで描かれ、さらに惹きこまれました。

 登場人物の心理描写が巧みなこと、社会的な問題に触れていること、登場人物それぞれが自分が抱えている問題に向き合い成長していくことなどの要素が以前読んだことのあるアンナ・ヤンソンの「消えた少年」に似ている気がしますが、こちらの結末のほうが、ずっとリアリティがあり、犯人探しの面ではすっきりできました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(海外の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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