2017年03月23日

「明治大正 翻訳ワンダーランド」

20170323「明治大正 翻訳ワンダーランド」.png

鴻巣 友季子 著
新潮社 出版

 翻訳家である著者がさまざまな切り口から、明治・大正時代の翻訳文とそのエピソードを紹介しています。この本を読むまでは考えたこともありませんでしたが、日本語の外の世界にあるものを、日本語の世界にいる人たちに伝えようとした人たちは、一世紀以上も前から試行錯誤を繰り返してきたのだと気づかされました。

 紹介作品のうち、新聞に連載された、黒岩涙香(るいこう)の翻案作「正史実録 鉄仮面」は、読者を楽しませたいと苦心した黒岩涙香によってストーリーが大胆に変更されました。どれほど面白くなったかは、著者の感想に頼らずとも、この作品が一世紀も経ってから新訳が出るほどの人気を得たことから窺い知ることができます。ここまでストーリーを変えても翻案と呼んでいいのかわかりませんが、「鉄仮面」の面白さを伝えたいという熱意は並大抵ではなかったようです。

 大ヒット作はほかにも、アニメで有名になった「フランダースの犬」があります。初の邦訳者は、日高柿軒(しけん・1879〜1956年)で、本国での出版(1827年)から約40年も経ってから、出版されたそうです。そのとき、ネロは清、パトラッシュは斑(ぶち)、ジャンおじいさんは徳爺さんという名で登場しました。それから約一世紀が過ぎ、ネロとパトラッシュを知る人もいない地元アントワープに日本人観光客が続々と訪れるほど、「フランダースの犬」は日本人に親しみのある作品に育ちました。

 そのほか、数え切れないほど数多くの子供たちに読まれてきた「小公子」は、初出が「女学雑誌」で、そこでは巌本善治妻と紹介されていた若松賤子(しずこ・1864〜96年)が翻訳しています。(翻訳家を誰々の妻と紹介するほど職業婦人が珍しい時代だったということでしょうか。)若松賤子は、早くに亡くなっていますが、もし翻訳を続けていれば、どんな作品が「小公子」のあとに続いたのでしょうか。

 これだけの作品を育てた人たちがいたことに感謝したい気持ちになりました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(英語/翻訳) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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