2017年12月05日

「野火」

20171205「野火」.png

大岡 昇平 著
新潮社 出版

 戦争中の食べることもままならない辛さ、思ったことを口に出して言えない辛さ、大切な人を失う辛さ、そういう辛苦辛労を疑似体験するような小説は、いままでにも読んだことがあります。でも、そういった小説を超える凄まじさがこの小説にはありました。

 フィリピンのレイテ島で肺病にかかり、戦力外となった田村一等兵は、病院に収容してもらうことも叶わず、わずかな芋を与えられただけで放りだされてしまいます。

 極限状態に追いこまれて彷徨う田村は、飢え以外に何かを感じることも、ましてや考えることなど到底できない状況で、さまざまなことを考え続けます。その姿は、思考を手放せば、人間であることも手放してしまうかのように見えます。そこまでして考えていると、単なる幻覚や幻聴ではなく、自らの思考をイメージしたような白昼夢のような光景を眼にするようになります。

 田村の思考を読むなかで、人間とは何か、倫理とは何か、生きるとはどういうことか、いろいろ考えさせられました。わたしは、これと同じ極限状態におかれたら、人と人が殺しあう戦争などというものが起こるに任せた自分を呪い、あとは可能なかぎり何も考えずに、ひとりで衰弱に身をまかせいたいと思いました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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