2018年11月11日

「ねみみにみみず」

20181111「ねみみにみみず」.png

東江 一樹 著
越前 敏弥 編
作品社 出版

 あちこちで書かれた翻訳家の文章が、没後編集されて日の目を見るなんてことは珍しいと思います。エッセイストとして活躍する翻訳家も数多くいますが、この著者の場合はそうではありません。訳者あとがきや翻訳 (ミステリ) 関連の雑誌に掲載された翻訳のエッセイがほとんどです。さらに、直接親交のあった方しか読む機会のなかった年賀状も収められているのは、『珍しい』を通り越しているかもしれません。

 やや古すぎる内容も含まれますが、軽妙洒脱で、読んでいて笑ってしまいます。海外作品をおもに紹介するミステリ雑誌、「EQ」に掲載された連載の一部には、こんな文章があります。
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え〜ん、これはつまり、翻訳が悪いってことなのかよう、水曜、木曜。
労力と情熱の対価が、あまりにも安いよう、木曜、金曜。
これじゃあ生計を立てていくことができんよう、土曜、日曜。
というわけで、わたしに残されたのは月曜だけとなってしまった (意味不明)。
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 これはデイヴ・バリーというユーモア・コラムニストが書いた本を翻訳したものの、売上が芳しくないと書いたときの一節です。こういう文章を読むと、技量はもちろんのこと、ユーモア本の売れない日本でデイヴ・バリーの翻訳に挑まれたことも含め、(ミステリだけでなく) ユーモア本を訳すのにも最適任の翻訳家だったのだと思わずにはいられません。

 わたしにとっての一番は、年賀状でした。凝りに凝った内容で、しかも、自虐ネタ満載です。一見笑えるのですが、他ジャンル用のペンネームを持ってノンフィクションの翻訳で生活費を得ながら、細々とミステリを訳していらした様子が窺え、印象に残るおもしろいミステリのあれこれや「ストーナー」のようにこの先ずっと持っていたい本を読ませていただいたことに対する感謝の気持ちが湧きました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(エッセイ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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