2019年01月07日

「望郷の道」

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北方 謙三 著
幻冬舎 出版

 明治時代、故郷から追放されるも、いつか帰りたいと台湾で懸命に頑張った夫婦の生きざまを描いた作品です。

 佐賀で賭場を営んでいた主が亡くなり、ひとり娘の瑠瑋が跡を継ぎます。時代を考えると、賭場を守っていく覚悟を決めた彼女がいかに胆のすわった人物かがわかります。そしてそこに婿入りした正太は、商売の才覚をあらわし賭場を大きくしていきます。

 順風満帆なのもつかの間、彼らを妬む者から卑劣な方法で商いを奪われ破産に追いこまれそうになったとき正太は、家族を守るため刀で決着をつけようとします。幸いあいだに入る人があらわれ、人を殺めることも賭場を潰されることも免れましたが、正太自身は、所払いとなってしまいます。

 正太は、家業を守り、結果的には家族も守ったわけですが、その代償は大きくいつか故郷に帰りたいという強い願いを抱くようになり、それがこの本のタイトルになっています。

 この夫婦の愛を描いたとも、波乱の時代の事業とそれを為した男の執念を描いたともいえる作品だと思いますが、わたしの印象に残ったのは、人を見て、人を知り己を知ることの大切さです。

 正太が事業家としていかに優秀であっても足りないところは妻が補い続けたこと、正太が菓子の製造販売という事業を立ち上げたときの片腕だった職人の島田がいかに中心にいても、新しい菓子を追い求めるために若い青木を登用し支えたことなど、自己だけでは成り立たないことをそれぞれが知っていたことを羨ましく思いました。

 小説を読むと、自らがいま何を欲しているのかがわかることがありますが、今回がそうでした。
posted by 作楽 at 21:00| Comment(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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