2007年09月05日

「非道、行ずべからず」

20070905[HidouGyouzubekarazu].jpg

松井 今朝子 著
マガジンハウス 出版

 表紙をめくれば、そこは別世界で生きる人々が交錯している。それが小説のおもしろさだとすれば、まさにこれはその別世界をリアルに体験できる小説だと思います。

 江戸時代の歌舞伎芝居の世界にこの本が案内してくれます。私は学校の授業以外に歌舞伎を見たこともありませんし、現代の歌舞伎役者の名前もほとんどわかりません。そんな素地がない私のような者にもうまく芝居の上での決まりごとや役者や作者の立場をわかりやすく教えてくれます。かといって、それがストーリー展開の邪魔になるようにはなっていません。それが作家の力量を表しています。

 ある年の元日、芝居小屋が火事に巻き込まれ半焼します。木造家屋が多く、密集していた江戸では珍しいことではありませんが、そこから絞殺死体が発見されます。

 時代小説でありながら、ミステリでもあるこの本は、このあと犯人探しを軸に進みます。ミスリードがあったり、謎めいた符丁のようなものがあったりと、ミステリとしての形はとっていますが、存外簡単に解けてしまうものなので、謎解きとしてはいまいち盛り上がりがありません。

 ただ、謎解き役が誰かなのかが最後までわかりません。探偵シリーズなどであれば謎解き役は最初からわかっています。でも、わからない場合は最初から誰が謎解き役になるかが気になりますが、この話では謎解き役が次から次へとリレーのように引き継がれていきます。そこが趣向として少し変わっています。

 謎を解こうと色々嗅ぎまわっているうちに、人と人の関係が明るみに出てきます。男と女、親と子、舞台の上で鎬を削る役者同士。どの人物もその個性がきちんと描写されていて、関係がわかればわかるほどおもしろくなり、先を読み進めたくなります。犯人を知りたいという気持ちとの相乗効果でページを繰る手を休めたくなくなります。

 そして読めば読むほど、人と人とのつながりの脆さ、はかなさを感じます。ある人のためを思い、その人のためを思う一心でしたことも、思われているほうとしては辛い結果にしかならない。そういうことも生きているかぎりあるのだと、時代も舞台も違う話を読みながら思ってしまいます。

 違う年代、違う生活を生きる人々をうまく描写しながら、人の本質をを描いたおもしろい作品でした。
posted by 作楽 at 00:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック