2007年11月29日

「家、家にあらず」

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松井 今朝子 著
集英社 出版

 中に居てもよくわからないことが、外から見るとよくわかる。そういうことはよく起こります。たとえば、日本に生まれ育った私が、初めて日本を出たときには、日本のことを何も知らなかったのだと実感しました。

 外国人から訊かれて初めて考えたことは、たくさんありました。そのひとつが、女性からよく訊かれる愛人問題。日本人の男性は、妻以外の女性と付き合うのが普通というか、問題にならないというが本当か。何をもって本当と言えばいいのかドギマギとしてしまいますが、よく聞くありふれた話題であることは確かだと認めると、次の質問は、なぜそんなことをされて平気なのか、なぜ妻は怒らないのか、と詰め寄られます。そう言われても、妻の立場に立ったこともなければ、浮気されたこともないので経験は語れません。もし浮気を執拗に責めて離婚ということになれば、妻の側が経済的にたちゆかなくなるケースが多いから、一時の浮気なら、見て見ぬ振りをするんじゃないかなぁ、と推測や聞いたことがあるケースから答えを絞り出すと、色々な反応が返ってきます。印象に残っているのは、アメリカ人男性が本当に悲しそうな顔で、経済的問題で結婚を維持するなんて、可哀相過ぎると言ってたことです。また、韓国の女性には、私なら絶対黙っていられない。言いたいことは全部言う、と言われました。同じ国籍の人がみな同じ感じ方をするわけではないと思うのですが、日本人女性の感覚が信じ難いというニュアンスのことは、多数の人に言われたように記憶しています。もう10年くらい前のことです。

 そんな昔のことを、なぜ思い出したのかというと、この本を読んでいて、日本のそういう文化は、江戸時代の奥から始まったと説明すればよかったのではないかと思ったからです。

 将軍家の場合、大奥と呼ばれ、ドラマなどでもよく取り上げられています。この「家、家にあらず」の場合、大名である砥部家の奥が舞台になっています。主人公は、17歳の瑞江。母を亡くし、父と弟と暮らす生活では、行儀見習いなども疎かになるのではないかと気にする知人の勧めで、御殿で勤めることになります。

 その中で、彼女は女の悲しい立場を考えさせられる場面に出くわします。女性ばかりの奥での暮らしでは、殿の寵愛を受けた女性は幸運の部類に入るのかもしれません。それにしても、他の女性に対する嫉妬を表に出すこともできない暮らしをどう思っているのか知りたいなどと思うのです。まして、寵愛を受けることもなく、一生奥で暮らす女性の気持ちを考えます。

 選ばれるのを待つ女性。跡取りを生むための道具としての女性。そういう女性を目にしながら、自分が何かを選ぶ立場になりたいと思う瑞江。その気持ちは、現代の女性と、なんら変わるところはありません。

 一方で、跡取りがいなければ、お家は断絶。そうなれば、召し抱えた者たちも路頭に迷わせることになります。皆の幸せのために、なんとしても跡取りが必要という状況の中で、奥の必要性もあったのでしょう。すべての人に選択という自由を与えることが叶わない環境があったのです。お互いの嫉妬を剥き出しにせず表面的には協力してやっていく。女性はそのことで耐えるということを身につけたのでしょう。

 そういう過去が、外国人から興味を持たれている日本の状況をすべて説明できるとは思いませんが、要因のひとつになっているのだと、私は推測しました。

 舞台は江戸時代でありながら、現代の女性の生き方をありありと思い浮かべてしまうあたり、作者の力のすごさを感じます。解説には次のように書かれてありました。
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松井は諷刺作家としての立場を明らかにした。諷刺というのは批判的な言辞を唱えるだけで叶うものではない。小説の中に現実を映す鏡を置き、その鏡像の歪みによって読者の胸中に現実への疑問を呼び起こすことが必要なのである。
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 主人公の瑞江は、私にとって鏡そのものでした。私は、自分で自分の道を決めるという道を選択したいと今まで以上に強く思いましたし、またそのことを誇りとしたいと思いました。

 「非道、行ずべからず」「東洲しゃらくさし」と松井今朝子氏の本を続けて読みましたが、もっと読みたくなってしまう作家だと再認識しました。「家、家にあらず」は諷刺としてだけではなく、ミステリとしても楽しく読めるので、男性にもお勧めしたい本です。
posted by 作楽 at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(日本の小説) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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