2008年04月17日

「やがて哀しき外国語」

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村上 春樹 著
講談社 出版

 旅をテーマとするブックストア、BOOK246で見つけた、エッセイです。著者が心酔するF・スコット・フィッツジェラルドの母校に、1991年から2年にわたり客員教授として招聘され、プリンストン(米国)に滞在したときの記録のようなエッセイです。

 著者は、たぶん現代の日本を代表するといってもいいくらいの作家なのでしょうが、意外にもあまり読む機会もなく、どんなエッセイなのか想像もつかず、期待もなかったのですが、いろんな意味でよかったです。

 まず、その少し古いところが思い出を感じさせてくれました。昔の音楽を聞くと、その当時のことを鮮明に思い出したりすることがあるのですが、この本もそんな感じです。湾岸戦争のこと、ジャパンバッシングのこと、車を中心とする日米貿易不均衡のこと、などなど。そういう時代があったことを思い出す機会が減っているだけに懐かしく思い出せます。

 もうひとつは、「やっぱり、そうなんだ」という部分が意外にもたくさんありました。たぶん、私がアメリカという国やその文化に触れる機会は、著者の数十分の一、あるいは数百分の一だと思うのですが、それでも、「そうだ、そういうことってある」と思えることがありました。たとえば、サバービア(郊外)とシティの違いについて、こう書かれてあります。
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アメリカという国はもう完全に、都市部のエスニックと、郊外の白人というふたつの社会、あるいは二つの国に分かれてしまっている。
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 現時点で私は、サバービアにあたる地域にある会社で仕事をしています。一応グローバル企業なので、日本を含め、各国にオフィスはありますが、本社は設立以来サバービアにあります。そして、そこの社員はみごとに白人に偏っています。黒人とか東洋人とかは、ごくごく一部だと思います。今までに軽く百人を超える本社メンバとメールをやりとりしましたが、白人以外に気がついたことがありません。(可能なかぎり、メールをやりとりする人の顔を確認するようにしています。アメリカ人の場合、日本人名で男女の区別をできる人がほとんどいないので、話題にのぼるたび、私は"he"といわれます。できれば同じ間違いをしたくないので、写真で性別を確認したいわけです。)会社が差別をしているとは考えにくいので、たぶん白人しか住んでいないのだとずっと思っていました。この本を読んで、「やっぱり」と思ってしまいました。

また、こんなことも書かれています。
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僕の印象でいくと、どうもアメリカの女の人はだいたい「自分はこういうことをしています」と口に出してはっきりと言えて、誰もがそれで「なるほど」といちおう納得してしまうようなかたちある何かをひとつくらいはきちんと用意しているようだ。僕はそういうのを個人的にPC(ポリティカリー・コレクト)トークン呼んでいる。
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 アメリカにおける女性の自立に対する考え方は、私も同じような印象をもっています。というのも、二十数年も昔、私にはアメリカ人と付き合っている女ともだちがいました。私のまわりでは、彼女が外国人と付き合った最初の女性です。その女性が、付き合っている男性と大喧嘩したと愚痴をこぼしたことがありました。あの気さくそうで、優しそうな人が怒ることもあるんだ、と話を聞いていくと、彼女たちが同棲していく上での役割分担が、彼にとっては気に入らないことが原因のようです。家事を一手にひきうける彼女に対して、家事はふたりでするものだ、君は君がしたいことにもっと時間を費やすべきだ、と言い出したそうです。でも、彼女としては特にほかにすることもないし、と答えると、怒りだしたそうです。そんなことはない。君はぼくにしてくれる色んなことにかまけて、自分でしたいことが見つかっていないだけだ、と強く主張したそうです。当時の私は単純で、いいなぁ、と思ったのを覚えています。その後、そういうカップルを数多く見て経験したなかで、やはり、ポリティカリー・コレクトネスを強く強く意識しているのが、アメリカ人という印象をもっています。

 最後は、著者の価値観と自分の価値観が似ている気がしたことです。といっても、「自分は自分、他人は他人」という、共通点といえるかどうか微妙なラインにある一般的な考え方なんですが。でも、心底そう思っていることが随所から読みとれて、楽しい気分になりました。やはり価値観が似ている人の話は単純におもしろいです。次は、ヨーロッパに滞在されたときのエッセイ、「遠い太鼓」を読んでみようかな、などと考えています。
posted by 作楽 at 00:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(エッセイ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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