2017年09月16日

「オーケストラの指揮者をめざす女子高生に『論理力』がもたらした奇跡」

20170916「オーケストラの指揮者をめざす女子高生に『論理力』がもたらした奇跡」.png

永野 裕之 著
実務教育出版 出版

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」の真似というのが、この本に対する第一印象ですが、取りあげられているのが難しそうな数学書「原論」で、それを学ぶのが女子高生となれば、わたしも難解な数学を少しは理解できるかもしれないという期待がわき、読んでみました。

 本当に基礎の基礎から始まるうえ、既出の問題にも適宜触れながら進むので、投げ出さず読み通せました。その基礎の基礎の例ですが、以下のようなギリシャ文字の読み方も載っています。そんな至れり尽くせりでも、さすがにわたしのレベルでは「原論」を理解できたと言えるには至りませんでしたが、それでも、2000年以上も前の書物がいまも読まれている理由が納得できました。

20170916 ギリシャ文字.png

 紀元前3世紀ころにユークリッドが書いたとされる「原論」に対して抱いたイメージは、無駄をいっさい排除した美しさのようなものです。異を挟む余地がまったくないよう証明され、その証明はその後の証明において最大限活用できるよう組み立てられ、直線的に高みへと登っていくようなイメージです。

 異を挟む余地のない証明を根底で支えているのは、定義、公理、公準などです。これらはいずれも、異なる考えをもちうる人たちのあいだで基礎となるルールにあたります。そのうえにさまざまな証明が重なり、タイトルにある『論理力』、つまり異なる考えをもちうる人々が認識を一にするため必要なものを欠かさず積み重ね、揺るがない共通認識を築きあげることが可能になるということを本書は伝えています。

 以心伝心といった文化をもつ日本で、あまり知られていないユークリッド原論の方針は、グローバル時代において、もっと理解されていもいいものだと感じました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月28日

「ポイズンドーター・ホーリーマザー」

20170828「ポイズンドーター・ホーリーマザー」.png

湊 かなえ 著
光文社 出版

 以前読んだ「向日葵の咲かない夏」は、工夫をこらした作品だと思いますが、こういったイヤミス風の作品は苦手で、その後、道尾秀介の作品には手が伸びませんでした。この本の作家が『イヤミス』の女王だと知ったのは、読んだあとです。短篇集なので、イヤミスといっても、二度と読みたくないと思うほどの嫌悪は感じませんでしたが、やはり苦手なジャンルです。

 タイトルにドーター・マザーとあるように、母娘の関係を背景にした作品が多く、起きた犯罪にかかわるあれこれを語る形式も似ていて、それぞれ意外性のある結末が用意されています。その意外性は、ある状況におかれた人たちが、それぞれ違った解釈をすることによって生まれます。ひとつの解釈のあと、別の解釈が提示されるのですが、こういった状況解釈の相違は日常的によく起こりますが、敢えて指摘せず、まったく違う解釈をする人たちを避けて暮らしているだけに、わざわざ小説のなかで見たいとは思えませんでした。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月11日

「定年男子 定年女子 45歳から始める『金持ち老後』入門」

20170811「定年男子 定年女子」.png

大江 英樹/井戸 美枝 著
日経BP社 出版

 男性著者と女性著者それぞれの視点から定年後のアドバイスがなされています。著者のリアルな個人経験なので、説得力はあるものの、そのままでは自分にあてはめにくい内容でした。

 そうはいっても、個々のアドバイスの手前にある問題点の指摘は、とても納得でき、自分はどうしていくか考える参考になりました。一番印象に残っているのは、老後は、病気、お金、孤独が三大不安要素で、会社員と自営業では、対処する優先順位が違うということです。自営業では、1.お金、2.病気、3.孤独の順に優先度が高く、会社員では、1.孤独、2.病気、3.お金だそうです。

 孤独というリスクは、考えたことがありませんでした。ただ、女性の立場からいうと、会社員とひと括りにされるのは違う気もしますが、社外人脈を持てるよう「人の貯金」に励めという著者の意見には頷かざるを得ません。

 タイトルにあるとおり、入門レベルでは役立つ本だと思います。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月10日

「超訳 ニーチェの言葉」

20170810「ニーチェの言葉」.png

白取 春彦 訳
ディスカヴァー・トゥエンティワン 出版

 理解できているという実感が得られず、昔、最後まで読み切れなかったニーチェの作品が、小さな書店でも大量に平積みされていて驚いたことを思い出し、本書を手にしました。読み終えて、「超訳」とは何かという疑問がわきました。

 特許情報プラットフォームという登録商標が検索できるWebサイトによると、「超訳」は、1990年11月30日登録、2020年11月30日満了の商標です。1987年に出版されたシドニィ・シェルダンの「ゲームの達人」が最初の「超訳」のようです。

 たとえば、本書の064にある以下の出典は、「曙光」とあります。

事実が見えていない
 多くの人は、物そのものや状況そのものを見ていない。
 その物にまつわる自分の思いや執着やこだわり、その状況に対する自分の感情や勝手な想像を見ているのだ。
 つまり自分を使って、物そのものや状況そのものを隠してしまっているのだ。

 これを、ちくま学芸文庫の「ニーチェ全集7 曙光」(茅野良男 訳)で探してみても、以下438しか見つかりません。

20170810「曙光」.png

人間と物。−−なぜ人間は物を見ないのか? 彼自身が妨害になっている。彼が物を蔽っているのである。

「超訳」という登録商標をつけても、著者の解釈をニーチェの言葉とすることは、問題だとわたしは思います。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月24日

「たたみかた 福島特集」

20170524「たたみかた」.png

三根 かよこ 編
アタシ社 出版

 30代のための社会文芸誌だそうです。想定読者とは随分世代が違いますが、30代のころに、社会文芸誌というジャンルの雑誌を目にした記憶がないので、読んでみたくなりました。

 この創刊号は、東日本大震災、特に福島をテーマとしていますが、一番印象に残った記事は、福島とは何の関係もない記事でした。テロ組織に加入しようとする人を思いとどまらせたり、すでにテロ組織に入ってしまった人を脱退させたりする活動をソマリアで実施している永井陽右氏(25歳)に、編集長である三根氏(1986年生まれ)がインタビューした『この世紀のヒーロー』という記事です。

『話せばわかる』という考え方を一切否定し、『絶対に分かり合えない』という前提にたって、社会をよくしたい、世界を平和にしたいと考えて活動している永井氏の姿勢に共感すると同時に、その若さでそんな風に考えられる人がいることに心強さを感じました。

 この雑誌の紹介文に『合意形成を成し遂げるための必読書!』とあります。もちろんこの雑誌を読んでも、合意形成に到達する道筋が見えるわけではありませんが、社会における人と人の交わりが希薄になり、家族が小さくなり、真っ向から意見を闘わせる機会が少なくなっているいま、こういう雑誌のニーズが生まれたのだろうかと想像しました。
posted by 作楽 at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 和書(その他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする