2010年03月26日

「Night Frost」

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R.D. Wingfield 著
Crimeline 出版

 デントン署は今回も人手不足。原因は猛威をふるうインフルエンザ。誰もが通常の二倍働くなか、フロストと新しいつかの間の相棒ギルモアはさらにその上をいき、例によって寝る間もなく働き通しです。しかも、今回の相棒ギルモアは前作二作とは違い、既婚者。前作のようにいいムードになった女性との逢瀬をフロストの容赦ない指示で邪魔されるのとは違い、妻に愛想をつかされ、家出されてしまいます。

 そして、仕事のほうはといえば、二ヶ月も行方不明だった15歳の少女が死体で発見された殺人事件、脅迫状を送りつけられたうえ家を燃やされてしまった夫婦の放火殺人事件、年金暮らしのお年寄りばかりが狙われる連続殺人事件、他人の秘密を手紙で書き送る脅迫事件と、人手不足もお構いなしに次から次へと事件が起こります。

 個人的には、前作の「Touch of Frost」に比べると見劣りがした気がします。ひとつは、前作のほうが伏線の張られ方が巧みでミステリとして読み応えがあったと感じたことです。もうひとつは、前作では少しは論理性も備え、そこそこの推理を披露してくれたフロストが、今回は勘だけに頼り、越えてはいけない一線を越えてしまったことに共感できなかったことです。実際の現場では、一線を越えるところまで追い詰められるのかもしれませんが、そこはエンタテイメントのなかのことなので、やはりフィクションとして前作のように頑張って欲しかった気がします。

 そうはいってもやはり、よれよれでスケベなおじさんキャラのフロストが放つ強烈な個性といい、これだけの事件を収束させる手際といい、よくできたシリーズだと思います。次「Hard Frost」も楽しみです。
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2009年11月18日

「Getting Off Track: How Government Actions and Interventions Caused, Prolonged, and Worsened the Financial Crisis」

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John B. Taylor 著
Hoover Institution Press 出版

 日々の経済ニュースでまめに取り上げられる政策金利ですが、その適正水準を計算するモデルにテーラー・ルールというのがあります。その発見者が、この本の著者、ジョン・B・テーラーです。

 著者は、今回米国で端を発した金融危機は、この政策金利がテーラー・ルールから乖離し過ぎていたことが原因だったと述べています。あまりに低い政策金利が続いたために住宅バブルが大きく膨らみ、はじけたときの打撃も大きくなったと主張しています。(住宅バブルが大きく膨らんでいた時点では、政策金利もかなり上昇していましたが、著者は2002年から2004年の間の金利を問題視しています。)

 好況のときはこれが長く続いて欲しいと願い、テーラー・ルールから離れてしまったのかもしれないと、素人ながらに考えてしまいました。でも、その好況が大きかった分、次にきた不況も大きくなったということなら、一般消費者に過ぎないわたしとしては、テーラー・ルールに執着し、小さな好況不況の波を繰り返してくれるほうがありがたいと思ってしまいました。ただ、好況時における大量の資金流入があってはじめて成り立つ大事業や大改革を必要とする立場の人たちは、波がなさ過ぎると困るのかもしれませんが。

 今回の金融危機はこうして政策金利の失策により起こったと著者は主張していますが、失策はそれだけではなかったと言います。金融危機が表面化したあとの米国政府の計画性や透明性のなさが、この危機を長引かせたというのです。具体的は、大量の不良債権が見込まれるようになった時期の不良資産救済プログラム(TARP)の発表が不適切だったということです。リーマンの破綻で市場が混乱し、その対処が求められるなか、どのような不良資産は救済されるのかの「ものさし」が提示されなかったのは、市場の混乱をさらに拡大する結果になったと言います。実際、リーマンは助けられず、AIGは助けられたことに、「ものさし」の不透明さを感じた人は多かったようです。著者は、どのような対処が施されるかが明示されれば、将来への不安はおさまり人々は冷静に対応できると言います。実際、詳細なく不良資産救済プログラム(TARP)の実施のみが表明されたあと、金融市場の信用収縮が見られました。そして、きちんとした詳細が発表された時点では信用収縮に改善が見られました。この件は、ひとりの国民としての漠たる将来への不安を考えるときも、同じように感じるので、とても納得できる意見でした。

 著者の考えが正しいかどうかを判断する力はありませんが、ひとつの見方として、とても参考になりました。

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2009年11月10日

「A Touch of Frost」

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R.D. Wingfield 著
Sphere Books 出版

 「Frost at Christmas」の続編です。相変わらず、主人公ジャック・フロストの個性が光っていました。

 今回、不運にもフロストの相棒になってしまったのは、ウェブスター。失態で降格になり、フロストのいる署に異動になり、相棒になります。前作の相棒同様、ろくに眠らせてもらえず、ペーパーワークを押し付けられて辟易するウェブスターは、以前はフロストと同じポジションにいただけに、フロストに従う立場にうんざりしている様子。しかし、それが最後の最後に、フロストに一目置くようになります。それが、ウェブスターがフロストに対し、Sirと呼ぶひと言にあらわされていました。そのひと言と同じ重みで、フロストの人柄が滲んでいました。

 そこにたどり着くまで、殺人、連続レイプ、強盗、家出とありとあらゆる事件が起こります。しかも、警察流(?)の事件の重み付けで、担当が変わったり受ける圧力が変わったり、ややこしい出来事を経て、それぞれが並行して進展します。それぞれの事件は別々に見えて実は相互に関係していたり、その逆だったり。関連性を推測するという楽しみは、ひとつの事件だけを追うミステリとは違った味わいがあり、今回も楽しめました。

 しかも、今回はかなりフロストの心情に入り込んでしまう部分がありました。フロストは懇願されて躊躇いながらも、同僚の事件に踏み込みます。しかし、待っていたのは苦い結末。しかも、実はフロストが事件の全容を見抜いていたことが明らかにされ、さらに苦悩の色が見えてきます。もちろん、わたしの仕事に人の生死は関わってきませんが、こういうことってあるんだよな、といった共感を感じてしまいました。

 このシリーズは、謎解きとフロストのキャラクターというバランスのよい二本立ての楽しみのほかに、小さな共感の種が埋まっているところが気に入っています。
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2009年10月30日

「As Simple as Snow」

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Gregory Galloway 著
Berkley Trade 出版

 ある女子高生が失踪し、彼女のボーイフレンドがその謎を解こうとした軌跡が描かれた作品。

 いろいろ不思議な感じがする作品で、とても印象に残りました。失踪した女子高生アンナは、ボーイフレンドが通っていた学校に転校してきます。そして、それからすぐ、1500人ほどもいる街の住人ひとりひとりの死亡告知記事を書き始めます。そして、ひとり残らず書き終わったとき、アンナは行方不明になります。その間、7ヶ月ほどの間に、アンナは語り手であるボーイフレンドと付き合い始め、語り手はアンナのさまざまな面を知ります。アンナの失踪後、語り手は思い出を手繰りながら、アンナの行方を知ろうとします。

 高校生という一番若さがあふれている年代のアンナが、人間の一生を死亡告知記事に凝縮させるという作業をこつこつ続けていくのは不思議な感じがします。アンナは、死にこそ人のドラマがあるといい、まだ生きている人の死を想像して書きます。

 また、アンナは古い音楽や文学が好きで、生まれた時代を間違えたといいます。米国で人気のあったフィーディーニーという奇術師がいました。彼は、母親を亡くしたあとも母親と話したいと切望し、霊媒師を訪れます。しかし、友人のアーサー・コナン・ドイルは霊媒師は手品師のようなものだと種明かしをします。それを聞いたフィーディーニーは落胆し、妻とのあいだにふたりだけの暗号を決めます。似非霊媒師に騙されないように。アンナは、それと同じ暗号をボーイフレンドとの間に決めようといいます。ふたりだけの暗号。死んだあとも交信するための暗号。それがタイトルの"As Simple as Snow"です。そんな逸話を知っているだけでなく、実際に暗号を決めようとするのは、不思議な感じがします。

 しかし、失踪にしろ、事件や事故に巻き込まれたうえの死にしろ、アンナがその暗号を使うことはありませんでした。

 この本はもともと大人向けに書かれたものらしいですが、実際はティーンエイジャーに人気が出たそうです。同世代でこういう子がいたら、という憧れのようなものを感じて、若い世代に人気がでたのかもしれません。ミステリアスなアンナに最後まで引っ張られました。
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2009年08月04日

「The Kid: A True Story」

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Kevin Lewis 著
Michael Joseph Ltd 出版

 タイトルにあるように実話です。子供のころ虐待を受けていた著者がいわゆる普通の暮らしを手に入れるまでを綴ったものです。

 著者の母親は精神薄弱で父親はてんかんを患っていたようです。そのため収入がなく、行政から支給される児童手当に頼っていました。著者の虐待がとうとう明るみに出て、行政の介入により家族と別に暮らすことになったとき、母親は彼の分の児童手当がもうもらえなくなると言い放ちます。それを聞いた子供のころの著者を思うと胸がしめつけられます。

 そこまでの思いをして虐待を逃れ家を離れたにも関わらず、著者はチャンスを最大限活用することができず、さらなる回り道をします。このあたりは、日本では高校生くらいにあたるので、もう少し頭を働かせて頑張るべきではなかったのかと思う場面もあります。

 世の中で本になる実話では、特別な才能に恵まれた人たちや自分ではありえないような凄まじい努力をした人たちばかりが登場する気がします。しかし、この本では、ごく普通の少年が劣悪な環境で育てばこうなるのかも、と思うようなことが次々と起こります。そのどれも誉められたことではないでしょう。子供自身の頑張りがもっとあれば、普通の暮らしはもっと身近だったのかもしれません。でも、もし自分が同じ立場だったとしたら、どの程度頑張れたか疑問です。そう思うと、虐待という問題を見過ごしていけないと感じました。

 日本でも児童虐待が増えている状況を考えると、この問題特有の難しさを知るいい機会でした。
posted by 作楽 at 00:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 洋書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする