2008年10月03日

「Undead and Unwed (Queen Betsy, Book 1)」

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MaryJanice Davidson 著
Berkley Sensation 出版

 Elizabeth Taylorという冗談のような名前の女性が主人公です。愛称はBetsy、年齢は30歳、趣味はデザイナーズ・シューズのコレクション、職業は元秘書。といっても、この物語が始まったときは、まだ秘書でした。それが、寝坊して会社に出勤すると、いきなりクビに。それだけではありません。そのツイていない日の夜、愛猫Giselleが雪の中、道の上にいるのを見て、家に連れ帰ろうとしたとき、車に跳ねられて、死んでしまいます。

 主人公がいきなり死んでどうなるの、という感じですが、彼女は棺の中で目を覚まします。吸血鬼になって。吸血鬼になったことで、Betsyの生活は劇的に変わります。まず、血を吸わないと喉が渇いて堪りません。一方、生前好きだった食べ物は一切食べられなくなりましたし、トイレに行く必要もありません。生前の数分の一しか呼吸しませんが、人の目にとまらないスピードで俊敏に動くことができます。目覚めるのはいつも夕方です。吸血鬼の生活はこんな感じなのか。そうリアルに思えてきたところで、Betsyは他にも吸血鬼がいることを知ります。しかも、その吸血鬼の一部は、Betsyのことを吸血鬼界のクィーンだと言い張るのです。

 そして、吸血鬼界の抗争に巻き込まれていってしまいます。

 おもしろいのは、なんといってもユーモアのセンス。笑えます。デザイナーズ・シューズ命というBetsyのキャラクター、Betsyが吸血鬼になってしまい戸籍がなくなっても生活できるように、Betsyが住む家をポーンと買ってしまう親友で資産家の令嬢JessicaとBetsyの会話。Betsyをクィーンとして仕えようとするTinaが淡々と話す爆弾発言。それぞれにみな、笑えます。

 もう死ぬこともないBetsyなのに、不思議なことに読み進めていくとハラハラしてしまう展開も。

 吸血鬼のイメージとユーモアがミスマッチで、そのミスマッチが作品のおもしろさを引き立てています。おとなが楽しめるエンターティメント作品です。
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2008年09月11日

「The Logic of Life: The Rational Economics of an Irrational World」

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Tim Harford 著
Random House 出版

 「ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?」という本をもう3年以上も前に読みました。印象に残った内容に、人事採用担当者は、優秀な人材を選ぶことではなく、問題のある人間を選ばないことを考えている、ということでした。米国の場合、問題が起これば、日本に比べて裁判沙汰になりやすく、補償に関しても企業の財力が大きく影響する傾向がある(補償内容が同じでも、財力がある企業が補償する場合とそうでない企業が補償する場合では、金額面が何桁も異なることがある)ため、当然といえば当然なのですが、いつも採用される側に立っていると、つい忘れがちな視点です。

 米国では特定のポジションを想定しての採用が一般的です。広告や人材会社の管理などは人事部が一括でしてくれますが、最終的には、必要とされるポジションの上長に当たる人が責任を持ちます。結果、足きりのような筆記テストや面接を人事部が実施しても、該当ポジションの上長あるいは上長が選んだ人間が面接することになります。そのようにして採用した人間が会社に害ある人間だった場合、面接したのは誰だ、ということになりそうです。一方、特別優秀な人間がいても、面接したのは誰だ、とはならないような気がします。そう考えると、無難な選択になるのではないでしょうか。

 そして、ここからがこの本の内容です。人種差別がなくならない仕組みについて説明されています。ある実験がもとになっています。実験参加者はヴァージニア大学の学生です。学生たちは、雇用者と労働者に分けられます。労働者は、無作為に"緑色"と"紫色"に分けられます。そして、次のような手順が繰り返されます。

1.労働者は、費用をかけて、教育を受けるかどうかを選択します。(教育を受けた場合、テストで高い点数を取得できる確率が高まります。)
2.採用テストが実施されます。教育の有無で確率は変わりますが、テストの点数はさいころで決まります。
3.各雇用者は、テスト結果だけを見て、それぞれを採用するかどうかを決定します。
4.雇用者は、教育を受けた者を採用した場合、数ドルの報酬があります。教育を受けていない者を採用した場合、数ドルの罰金があります。一方、労働者は、採用された場合、報酬が得られます。罰金はありませんが、1.で教育を受けた場合、費用がかかっています。

 問題は、情報の開示です。手順の2巡目以降は、色別のテスト点数と採用結果平均が知らされます。これにより、1巡目の結果によって、手順を20回繰り返したときには明確な色別の傾向が生まれます。つまり、まったく情報がなかった状態で決まった色別の上下が開いていきます。1巡目で、"緑色"に当たった学生のほうがより多く教育を受けたと仮定しましょう。そうすると、2巡目以降、労働者が教育を受ける際、採用される可能性の高いほうの色、つまり"緑色"が当たれば、教育に費用を払う傾向が顕著になります。一方、雇用者は、過去のテスト結果平均が高い傾向にある色、つまり"緑色"のほうを選ぶようになります。

 言うまでもなく、この1巡目に上位になった色とは白人のことを指しています。

 無難な採用をするということは、白人を採用するということに傾いたままなのでしょうか。日本の場合は、男性が白人に当てはまるのか、当てはまらないのか、アメリカの仕組みを考えるとともに、日本のことを思ってしまいました。

 そのほかにも、理由がつかないように見えて、実はそれなりに論理的な判断で成り立っている身のまわりのことがらが、説明されています。少なくともアメリカではそうなんだろう、と納得してしまうくらいの説得力がありました。
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2008年06月04日

「Frost at Christmas」

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R. D. Wingfield 著
Bantam Books 出版

 主人公はJack Frost。警察社会という一般社会より窮屈そうな環境のなかで、どこまでもマイペースを貫く中年男性です。妻に先立たれ、家に帰ってもひとり。ほかにすることもないからなのか、時間を気にすることもなく深夜まで仕事し、早朝からまた仕事。でも、目的は出世でもなく、仕事の鬼というわけでもない。なにしろ、上司の命令をまともに聞いているふうでもなく、上司に気に入られることなど眼中にない。しかも、ペーパーワークは、からっきしだめ。部下の勤務報告さえ、忘れ果てる始末。しかし、みんなに残業代が期日通り支払われないことを気にしないわけではない。部下のことを気遣い、落ち込んでいる様子。そういうところがなんとも憎めない。組織の上のほうのことは全然気にするふうでもなく、自分のことを気にするふうでもなく、しかし部下のことは気遣い、迷惑をかけている自分に気づくと落ち込む。ただ、悲しいことに人から指摘されないと気づかない。

 現実社会では、できれば、Jackのような上司は勘弁して欲しい。まして、絶対彼氏にはできない。なにしろ、デートの約束さえ、部下の勤務報告同様忘れ去り、約束をすっぽかしてしまったことを指摘され、ちょっと落ち込む。けれど、しっかり彼女のベッドのもぐりこんでしまうような、なんとも表現しがたいことをしてしまうのです。

 でも、自分に何ら関係ない世界のこととなると、俄然笑えてしまいます。その強烈な個性は、物語を彩る素敵なパーツになってしまうのです。

 そのほかの面々もかなり個性的です。優秀な上司と組ませてもらえる予定だったのが、その上司が急に体調を崩したために、Jackと組むことになってしまった、Clive Barnard。彼は、警察社会の有力者の親戚で、本来特別待遇でもおかしくないのに、そんなことまったく頓着しないJackと組む破目に陥ってしまったところが、また笑えます。

 ストーリーもよくできています。時代も背景も異なる事件がバラバラに進行するにも関わらず、最後はうまくまとまってしまいます。しかも、主人公であるJackが、論理的にひとつひとつパズルを嵌めこむように結論を導くのではなく、なんとなく行き当たりばったりのように見えて、変なところで鋭い勘を発揮したり、肝心な作業を忘れて、読者をやきもきさせたり。登場人物の個性がストーリーのおもしろさを引き出しています。

 現実には身近にいてほしくはないけど、上司を気にせず、マイペースで、ちゃっかり彼女もいるJackを、自分の会社生活に当てはめてみると、痛快だったり、ちっぴり羨ましかったり、共感できたりします。最後には、そのJackが、危ないめに遭いながらも、しっかり事件を解決するあたり、爽快です。

 シリーズになっているので、次も再販されれば読んでみたいと思います。
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2008年05月21日

「On What Grounds (Coffeehouse Mysteries)」

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Cleo Coyle 著
Prime Crime 出版

 Coffeehouse Mysteriesのシリーズの第1巻です。いつも感じるのですが、シリーズの第1巻は大変です。必要となる背景を最初に説明しないと先へは進めないのですから。人気の度合いによってか、シリーズの途中で、前の設定を覆すようなとんでもない変更がでてくることもありますが、基本的には、第1巻で説明されたことがベースになって、シリーズは進行するのですから、仕方がないといえば、仕方がないのですが。

 このシリーズも例外ではありません。主人公のClare Cosiは、約1世紀という長い歴史を持つコーヒーショップVillage BlendをMadame Dreyfus Allegro Dubois(いつもは、単にMadameと呼ばれています)から任されているのですが、その経緯も説明されていますし、Clareの前のマネージャMoffat Flasteが、いかにいい加減だったかも説明されています。その上、とても不自然に見えることですが、別れた夫であるMatteo Allegroと同居している状況の説明もあります。

 本題に入る前にずいぶん色々と説明しないといけないな、と他人事ながらため息が出ますが、読むほうも、なんとなく肝心な部分が棚上げになって、テンポよく読めない気がします。

 肝心な部分、つまり本題というのは、AnabelleというClareの右腕としてVillage Blendで働くマネージャがある日、店の階段から転落した状態で発見され、事故が事件かはっきりしません。でも、Clareは事件だと直感します。事件なら、犯人がいるはず。それに動機は何か。

 一方、警察側のQuinn警部補は、特に事件と断定する要素がないことから、事故ではないかというのですが、Clareはこれに対して、勘で対抗するのみ。

 そうこうするうちに、以前Moffatが店を任されていた間に、事故保険が切れていることが発覚します。つまり、Anabelleの事故を補償できる保険がないことがわかります。事故ではなく、事件のほうが店にとってもありがたい、という状況になり、Clareと別れた夫、Matteoが協力して、犯人探しに乗り出します。というのは、店のオーナーであるMadameは、Matteoの母親なので、彼には協力する理由がいろいろあるわけです。

 なんともややこしい人間関係というか背景を抱えながらも、事件(事故)はなんともシンプル。階段から落ちて死亡。なんとなく、事件を解いているというより、複雑な人間模様を描いているという印象を拭えないので、ミステリを読んでいるという満足感は得られないのですが、このシリーズ、ちょっと気になります。というのは、ClareとQuinn警部補が今後どういう関係になっていくのか、とか、ClareはMatteoと寄りを戻すのか、とか、ロマンスの部分も見え隠れするのです。それだけではありません。ClareとMatteoの娘Joyは、この巻でボーイフレンドを連れて登場していますし、Madameは腫瘍専門医との交際を告白しています。私としては、ClareとQuinn警部補に素敵な関係が生まれればいいな、などと感情移入してしまっています。

 次の巻からはテンポよく進んでくれることを期待しつつ、恋の行方が気になって、次の巻も読んでしまうような気がします。
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2008年01月22日

「Righteous Men」

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Sam Bourne 著
Harpercollins 出版

 「ダ・ヴィンチ・コード」の爆発的大ヒットの影響で出てきたともいわれる宗教関連ミステリです。

 主人公のWillはNew York Times記者。まだ駆け出しで、最初の殺人事件を担当するところから物語は始まります。その最初の事件は、Howardというポン引きが殺され、特に捜査されることもない、ありきたりの事件のはずでした。それが、Willが調べたところ、被害者のポン引きには意外な一面があったことがわかります。Letitiaという女性が、夫の保釈金を払うために身を売ろうとHowardを訪ねたところ、Howardは自分の寝具を売り払って金をつくり、Letitiaに渡したというのです。ポン引きという仕事をしながらも、被害者は正義の男(righteous man)だったのです。

 そして、Willが記事にした2件めの殺人事件の被害者も正義の男でした。財産もなく、寄付する金がないから、といって、自分の腎臓を見ず知らずの他人に提供するために手術を受けたという男です。

 物語は、正義の男がこれからも次々と殺されるという不思議な展開を予想させるのですが、そこでWillの妻Bethが誘拐されます。脅迫メールが送られてきたのですが、そこには警察の介入は許さないこと、金が目的ではないことが書かれていました。警察に届ければ妻の身の安全がおびやかされるため、Willは警察には届けません。ただ、目的もわからなければ、Bethが無事戻ってくるかどうかもわかりません。なんとかBethを助け出そうとするWillは友人の力を借り、脅迫メールの送信元を突きとめました。それは、アメリカで最も大きなユダヤ教徒コミュニティであるCrown Heights。

 こうして、Willが取材していた正義の男、ユダヤ教、妻のBethとつながってきます。

 なぜ、正義の男が次々と殺されるのか、なぜBethはユダヤ教徒に囚われているのか。謎が深まり、ぐいぐいとひっぱられてしまいます。

 謎とその謎ときは、とてもおもしろい本です。ただ、個人的には、もう少し人物描写があってもよかったと思います。感情移入できるような登場人物もなく、少し残念でした。
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