2014年01月14日

「新生の街」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
直良 和美 訳
東京創元社 出版

 リディアとビルが活躍する「チャイナタウン」「ピアノ・ソナタ」に続く第三弾です。視点がリディアに戻って、ニューヨークのチャイナタウンならではの話題が復活しています。

 このシリーズをここまで飽きずに読む進められてきた理由を考えてみました。まずは、物語の構成のバランスが心地よいことだと思います。たとえば、リディアを通して、駆け出しの探偵の苦労を察することも、中国系移民の立場を知ることもできますし、ビルを通して、探偵として一人前になるまでの道のりを垣間見ることも、白人の立場を想像することもできます。

 それより何より、リディアとビルが活躍するこの(携帯電話どころかポケベルを買うのにも決断を要する)時代に、若い女性であるリディアが自ら見つけだしたやりたいことをやり遂げるために、家族や男性陣と闘う姿に共感を覚えるからだと思います。そして、そんなリディアを仕事上のパートナーに選んだビルも好ましく見えます。

 そんなことに思いが至ったのは、今作では、リディアのほかにも自らが選んだ道を進もうと奮闘する姉妹が登場するからです。姉と妹は、性格も違えば、目指すものも違いますが、ふたりとも自分が欲しいものがはっきりとわかっている点に好感がもてました。

 次の作品も読んでみたいと思います。

2013年12月26日

「ピアノ・ソナタ」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
直良 和美 訳
東京創元社 出版

チャイナタウン」の続編ですが、視点がリディアからその相棒であるビル・スミスのへと移っています。細やかな女性の視点とは違って、感情を表に出すことなく淡々と調査を進めていく印象が強くなっています。

 その一方で、回想シーンなどビルの意外な一面を見せる場面も多く、「チャイナタウン」とこの「ピアノ・ソナタ」が揃ってはじめて、このシリーズの幕開けだと言えるのかもしれません。

 今回の依頼内容は、ビルの恩人であるボビーの甥を殺した犯人を捜し出すというものです。甥は、ボビーが経営する警備会社で警備員として仕事をしていた最中に殺されたため、ボビーの心中は察するにあまりあるものがあり、ビルは躊躇なく仕事を引き受けます。そして自らは警備員として現場に潜入し、リディアには外部での調査を依頼します。

 ボビーが請け負っている警備の対象は、治安が悪化しつつある地域にある慈善団体で、シニア世代の人たちが暮らしています。そして前作同様、チャイナタウン独特の事情も描かれています。子供たちが育つ環境としては厳しい場所かもしれませんが、さりげないビルの気遣いなどを読んでいると、世の中、画一的に判断できる事柄も、人も、場所も、存在しないという気持ちになるので、暗い面と明るい面のバランスよく描かれた作品だと思います。

2013年07月17日

「チャイナタウン」

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S・J・ローザン (S.J. Rozan) 著
直良 和美 訳
東京創元社 出版

 リディア・チンというアメリカ生まれの中国系女性が主人公の探偵ものです。女探偵とくれば、タフでかっこいいところを想像してしまうのですが、リディアは、負けん気が強いものの、外見は線が細く、わたしがイメージする探偵からは少し外れています。

 しかも、リディアの相棒は、背の高い白人男性です。チャイナタウンの中国系美術館から盗まれた磁器を取り戻すという調査依頼とくれば、この相棒、ビル・スミスがさらに浮いて見えてくるのですが、実はこのふたり、微妙な関係のようです。ビルは、リディアと恋愛関係に発展したいと思っていて、リディアのほうは、申し分ない仕事上の相棒との関係が変わるリスクを恐れているようです。

 しかも舞台がニューヨークとくれば、人種問題が重くのしかかってくるのかといえば、そうでもありません。そういう文化的な問題は、直接的というより、細やかな人の描写を通じて、徐々に見えてくる感じで、後味が悪くありません。ただやはり、移民一世と二世の違いやチャイナタウン独特のルールが描かれていて、それがこの作品のベースになっています。

 そのあたりの背景が絡んできて、盗難事件が思わぬ方向に逸れていってしまうところが、この作品を面白くしています。

 このおチビさん中国系探偵とノッポの白人探偵のでこぼこコンビは、シリーズになっていて、作品によっては、視点がビルのほうに移っているそうです。機会があれば、ビル側も読んでみてもいいかなと思っています。