2014年12月22日

「ウォータースライドをのぼれ」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
東京創元社 出版

 ニール・ケアリーを主人公とする当シリーズは、今作より前に三作ありましたが、それらとはまったく異なる仕上がりになっています。

 これは、前作「高く孤独な道を行け」の翌年、ニールが29歳くらいの作品です。それまでのあまりに幸薄い印象とはうってかわって、前作で付き合いはじめたカレンと幸せに暮らしているニールのところに養父グレアムがあらわれます。いつもながら探偵業から足をあらいたいと願うニールに、テラスをつくる資金にするため仕事を請けようと言い出すのは、カレンです。

 こうしてふたりの幸せのために仕事を請けたニールの案件は、終始コミカルに進みます。ニールがのっぴきならない状況に陥るのも、人が死んでしまうのも、いままでと変わりませんが、これまで見られなかったタイプの登場人物が勢ぞろいし、ニールを振り回すのです。

 加えてニールが、カレンの未来の夫ニールとして、カレンの意向を汲んだ決断をした結果、意外な結末を迎えることになり、シリーズの方向性が大きく変わりました。ここでシリーズ終了となっても良さそうな結末ですが、もう一作あります。気になるので、シリーズ最終作品まで読んでみたいと思います。

2014年11月15日

「高く孤独な道を行け」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
東京創元社 出版

 主人公ニール・ケアリーが中国に身を潜めなければならない立場に陥って終わった前作「仏陀の鏡への道」からあっさり三年もの月日が流れ、今作が始まります。24歳だったニールは、27歳くらいのはずで、しかも探偵として3年ものブランクがあることになります。

 しかし作品のなかでは、3年のブランクを感じさせない粘りを見せています。美しい女性に翻弄された前作とは異なり、人を騙してでも任務をまっとうしなければならない潜入工作員として、ひとりの幼い子供を守るために、立派に責務を果たそうとします。人として探偵として、ひと皮むけた印象を受けました。

 しかも今作は、ニールが父として探偵の師として尊敬するグレアムやニールを目の敵にするエドも大活躍で、相手方と互角にわたりあっている点が読み応えがありました。

 ニールがこの先どのように成長していくのか、気になりますし、次作も読みたいと思います。

2014年10月12日

「仏陀の鏡への道」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
東京創元社 出版

ストリート・キッズ」の続編ですが、「ストリート・キッズ」に比べて少しもの足りなさを感じました。それは、主人公の探偵ニール・ケアリーが観察力・推理力・行動力など優れた探偵が持ち合わせているべき能力を駆使して難事件に取り組むというより、美しい女性に溺れてしまい、翻弄されることに終始しているためかと思われます。

 ただそれはニールが、百戦錬磨の強者というより、まだ多感な世代であることのしるしでもあります。まだ24歳だというのに、人生のおよそ半分は探偵の仕事をしてきたとしても、やはり、そこは24歳らしいナイーブさを残しているということでしょう。

 はり巡らされた伏線や複雑なプロットは、前作同様に楽しめました。

 また強烈な個性の持ち主、ニールの父親代わりジョー・グレアムの登場が少ないのは残念ですが、代わりに、ニールと中国人青年という同世代ペアの会話が精彩を放っていました。

 シリーズはまだ2作目ですが、ニールという若い探偵は、命を賭した危険なギャンブルにうってでる傾向が顕著なので、このシリーズは、もしかしたらニールの死によって終わるのかも……などと思ってしまいました。

2014年09月02日

「ストリート・キッズ」

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ドン・ウィンズロウ (Don Winslow) 著
東江 一紀 訳
東京創元社 出版

 ニール・ケアリーという23歳の青年が身体を張って危険な任務をこなす探偵ものです。珍しいのは、タイトルにあるとおりニールは、麻薬に依存する母と暮らす私生児だったため、家庭らしい家庭をもたない子供だったという点です。

 子供のころにジョー・グレアムという探偵と巡りあい、さとられないように尾行することも、見落としなく家捜しすることも、何気なく目にしたことを覚えておくことも、危険から逃れて身を隠すことも、優秀な探偵として必要なことはすべて彼から学び、一人前の探偵として活躍しています。といっても、本人は在籍している大学院を卒業して教授への道を進むのが夢のようですが。

 そんなニールの過去と現在の事件が交錯しながら物語が進むのですが、現在の事件に所々過去の思い出が差し挟まれているだけでなく、ドラマのように、出来事を少し端折ってあとから種明かしするといった構成もあって、映像作品のような感覚を味わうことができます。

 端折ったり巻き戻したりする情報の与え方だけでなく、先の展開が簡単にはわからないように情報の量もコントロールされていて、勢いよく読まされてしまいました。